帰路
「三人でヒロ坊のうちに帰るから、先に帰っててもらっていいよ」
運動会が終わると、五年生と六年生は片付けがあるそうなので、千早が私達に向かってそう言いました。
一緒に帰れないのは残念ですが、仕方ありませんね。
「分かった。じゃあ、山仁さんの家で待ってるね」
山下さんが沙奈子さんに向かってそう言います。
とは言うものの、せめてゴミ拾いくらいはと考えて私達は運動場を見渡しました。
ですが、原則として水分補給以外の飲食は禁じられていることもあり、去年もそうでしたがゴミらしいゴミは落ちていませんでした。
聞くところによると、保護者の方々が出したゴミで毎年大変なことになる学校もあるとか。
子供達に規範を示すべき大人がその有様では本当に情けない限りですね。
ただ、こちらの小学校の場合は、生徒数が少ないことから当然、観客となる保護者の方々の数も少ないことで管理がしやすいという面もあるのでしょうが。
「いや~、いい運動会だった」
皆で一緒に帰っていると、カナがそう声を上げました。
「そうですね。少し寒かったですが、天気ももってくれて助かりました」
若干、肌寒く感じることもあったので私はそう言わせていただきましたが、観戦中は気にならない程度だったので問題はありませんでしたね。
するとフミは、やや肩をすくめるようにしながら、
「天気もそうだけど、私はあの
と。それは、ここにいる誰もが心の隅では心配していたことでした。
しかし彼女としても、もう、イチコに関わるのは時間の無駄と判断したようです。
可能であれば彼女の態度を改めさせたいという想いもあるのですが、現実にはそれは難しいでしょう。
かつての私であればそれが可能であると信じて疑わずに強引なことをしていたかも知れませんが、彼女との間には信頼関係が一切築けていない現状では、私はの言葉が届くことがないというのも、今なら分かるのです。
私自身が、信頼も尊敬もしていない相手から何を言われようとも聞き入れることはありませんから。
客観的に合理性のある意見であれば参考にもするものの、正直申し上げて客観的に合理性のある意見を持てる方がそれを押し付けてくることはないというのも分かるからです。
故に今の私は、館雀さんに対して何か強引なことをすることもありません。
それでもし、彼女が自ら不幸を招きいれたとしても、あくまで彼女自身の選択ですから。その責は館雀さんが自らで負うべきでしょう。
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