ラブレター事件 その7
フミとの確執がイチコと友人になるきっかけになったことは確かに事実です。ですが、イチコと友人になるのにフミと衝突する必要があったのかと言われると、
『なかったでしょうね。何故ならイチコは、友人になりたいと申し出れば拒絶することもなかったはずですから』
と答えるしかないのです。それが客観的事実です。
結局、怖かったのです。自身の信じているものが揺らぐことが。他人の意見を聞き入れることによって。
ですが、今なら分かります。
本当に自分の意見としてしっかりと確立されているものであれば、他人の意見に耳を傾けた程度のことでは揺るがないのだと。
お義父さんやイチコの、そしてヒロ坊くんの姿こそがそうですね。自分というものがしっかりと確立されているから、他人の価値観や意見に耳を傾けても、平然としていられるのです。
議論などの場合、ひどく感情的になる方もいらっしゃいますが、いえ、感情が昂っているだけならいいんですが、それを理由に暴言を並べ、他人を貶めようとするというのは、第三者の立場で見ていても明らかに劣勢なのですねと感じてしまいます。
はっきり申し上げて勝負にさえなっていませんでした。
もっとも、その私の印象を館雀さんに話せば間違いなくさらに感情的になるのは火を見るより明らかですので、それを口にはしませんが。
あの様子ですと、今後も絡んでくる公算が大でしょう。もしそうなれば探偵事務所に依頼して彼女の背景を洗いざらい調べないといけません。それによって対処法を探るのです。
人は誰しも<弱み>というものを持っています。徹底的に身辺を洗えばそういうものの一つや二つは出てくるものです。弱みを握ることができれば、交渉にも優位で臨めます。
ただ、あのタイプは、あまり追い詰めると爆発しかねませんので、弱みを握ったとしても無闇にちらつかせてはかえって意固地になるかもしれません。交渉事において安易に奥の手を切るのは下策です。いざという時のジョーカーとして、使わずに済めばそれに越したことはないでしょうね。
そして翌日、館雀さんは早速、昼休みに私達がいつものように集まって課題をこなしてるところに現れました。
「あら、いらっしゃい」
険しい顔でイチコの正面に立つ彼女に、イチコはやはり飄々とした感じで声を掛けます。
けれど館雀さんは、
「で? どう責任取ってくれんの?」
と、挨拶もなく切り出したのでした。
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