いつもの朝

土曜日。ふわふわした浮ついた気分と、そしてそれから覚めたことで、私はいつも以上にあれこれと考えてしまっていました。


そんな私とは関係なく、千早も自身でいろいろと考えているようです。


「絵里奈さんと玲那さんにケーキを作ってあげたいんだけど、丈夫かな? プレゼントは自重するって話だから、ケーキもダメかな…?」


いつものようにヒロ坊くんの家に行った時、千早がそんなことを訊いてきました。わざわざそれを確認しようとする辺りに、成長を感じます。


「僕はケーキくらいなら大丈夫だと思うんだけど」


とは、ヒロ坊くんの見解。


今日は先に千早が来ていて、まずヒロ坊くんに訊いたようです。なお、お義父さんは既におやすみに。イチコとカナはまだ寝ているようでした。


なので年長者として私が応えます。


「プレゼントとケーキは別のものであると私は考えます。なぜなら、食事の一環と考えることができるからです。なので大丈夫じゃないでしょうか」


すると千早は、


「だよね! ケーキくらいいいよね!」


と笑顔になり、


「じゃあ、さっそく…!」


ケーキ作りに取り掛かりました。普段から何度も立っているヒロ坊くんの家のキッチンは、千早にとってはもはや自分の家のキッチンと同じなのでしょう。手慣れた様子で必要なものを取り出し、準備を始めます。


正直、私が手を貸すとかえって邪魔になるので、後は任せます。


「おはよ…」


「おはよう」


「おはよう!」


そうしているうちにイチコが起きてきて、ヒロ坊くんと千早が挨拶をしました。


「おはようございます」


私も、いつも枕元に置いて寝ているというよれたTシャツにジャージ生地のハーフパンツと、大変にだらしない恰好で現れた彼女にいつものように挨拶をしました。


「おはよ。千早ちゃん、なんか張り切ってるね」


リビングに入ってイチコが口にします。


「絵里奈さんと玲那さんにケーキを作りたいとのことです」


「ああ、なるほど」


納得いったという表情をしながら、イチコが定位置に座りました。それから、テーブル代わりのコタツの上に置かれたスティックパンの包みに手を伸ばし一本取り出して頬張りました。これがいつもの彼女の朝食です。


朝からちゃんとしたものを食べる気にはなれないということで、敢えてそうしているとのことです。なまじしっかりした朝食を前にすると食べる気がなくなってしまい、コーヒーだけになってしまうとのことで。


なお、彼女は、コーヒーはブラック派でした。と言うか、ブラック以外は飲めないそうです。美味しく感じられなくて。


学校では茶道部に入っていて、飲み物では抹茶が一番好きという彼女は、いわゆる<世間一般の女子高生>が好きそうなものはほとんど好きじゃないという感性の持ち主でした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る