品のない言葉
お風呂に入って寛いでも、明日のことを思い出すとまた体が熱を帯びて頭が冴えてしまい、就寝時間になってもなかなか寝付くことができませんでした。
「
彼の名前が勝手に口を吐いて出ます。
いまだに人の前では『ヒロ坊くん』としか呼べないのに……
鼓動が早くなり、顔が熱くなります。自分が自分じゃないような感覚さえ。
「―――――っっ!」
私はベッドで一人身悶えながら、ただ時間が過ぎるのを感じていたのでした。
「……」
気が付いたら寝ていたものの、ほとんど寝た実感がないままにスマホのアラームで起こされ、私は鏡の前に立ちました。
明らかに睡眠不足を感じさせるクマが、目の下にくっきりと浮かび上がっています。
ああ…こんな顔では彼の前に出られない……!
私はまずストレッチを行い体の血行を良くし、しっかりと朝食をとり、洗面で顔のマッサージを行い、目の下のクマを取りました。
これでようやく出掛けられます。
そしていつものようにタクシーを呼んでヒロ坊くんの家に向かいます。
しかも今日は、皆で旅館に向かうためのハイヤーも手配しているので、そちらも念の為にスマホで確認しました。
そうしている間にもいつもの場所に到着しタクシーを降りてヒロ坊くんの家へと歩くと、視線の先に見覚えのある後姿が見えました。千早です。
「おはよう」
普段は誰に対しても『おはようございます』と挨拶する私ですが、千早に対してだけは、親しげなそれでした。千早自身が望むからです。他人行儀なそれは嫌だと。
私としても彼女の気持ちには極力応じてあげたい。私にとっても千早はもう、本当の妹のような存在ですから。
「あ、おっは~、ピカ姉♡」
振り向いた彼女の顔がとても嬉しそうで、私も思わず笑顔になります。
ヒロ坊くんとはまた別の意味で、彼女は私の心の支えになっていますね。
でも、
「おはよう!」
そう言って明るく私達を出迎えてくれたヒロ坊くんを前にすると、私は全身の血が勢いよく巡るのを感じずにはいられません。
やはり彼は特別なのです。
「はいはいピカ姉、メスの顔はいいからさっさと上がってくれるかな」
「な……!」
どこで覚えたのか品のない言葉を使う千早に焦るものの、それを耳にしたヒロ坊くんはまるで気にしている様子はありません。
それにホッとしながらも、私は、
「ダメですよ、そういう言い方は」
と諫めますが、千早の方はまるでこたえた様子もなく、
「へっへっへ~ん♡」
などと悪戯っぽく笑うだけなのでした。
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