四人で

私としては既に、あの旅館を頻繁に利用する気でいました。なので、土曜日で押さえられるところは、十一月まで押さえさせていただいたのです。


もっとも、紅葉シーズンが始まる頃はさすがに宿泊の予約が既に入っていたりして予約できない日もありましたが。


ちなみに来週土曜日も、取り敢えず私と千早の分だけですが予約を入れています。


そして翌日、いつもであれば山下さんのところにヒロ坊くんや千早と一緒に行くところを、ヒロ坊くんとイチコとお義父さんはお墓参りに、千早とカナとフミと私はあの旅館に、それぞれ出発しました。


昨日はタクシーを使いましたが、今日はバスで向かいます。バスでの移動経路と、所要時間などを確認するためです。


「う~ん、バスだと乗り換えが面倒かな」


乗り換えのための待ち時間も含めると四十分以上かかってしまいましたので、カナのボヤキも当然かなと思ってしまいました。


かと言って普通のタクシーでは、ここにイチコが加わるだけでも二台に分乗することになります。


なので、もしここに山下さんご家族も加わる時には、やはりマイクロバスを手配する必要がありそうですね。


まあそちらについては次に考えるとして。


「お~、こりゃ地味だわ」


カナが旅館を見るなりそう言います。ですがフミは、


「でも、雰囲気はあるんじゃない?」


とも。感性としてはフミの方が合う感じでしょうか。


「いらっしゃいませ」


昨日と同じく女将に迎えられ、仲居の案内でやはり昨日と同じ部屋に向かいます。高校生三人と小学生の組み合わせであっても、変わらず丁寧かつ淡々とした対応に、私は心地好いものを感じていました。


「へ~、思ったよりはきれいじゃん」


部屋に入ったカナの第一声でした。


「ホント、こういう古い感じの旅館とかって、なんかこう、部屋が薄汚れてるっぽいのが多い気がするけど、ここは違うね。新しくはないけど、汚い感じじゃない」


フミもなかなかに辛辣な意見を口にしますが、この部屋に対しては好印象のようですね。


「だから言ったじゃん。『いい』って。でもさ、部屋も綺麗だけどお風呂がいいんだよ!」


千早が、まるで自分のことを自慢するかのように胸を張りながら言いました。


「お~、そりゃ楽しみだ!」


「でも先にお昼だよ」


千早とカナとフミのやり取りを見ながらも、私はやはり仲居の動きを見ていました。私達の邪魔をしないように控えつつ、手際よくお昼の用意をしていくその様子を。


年齢はおそらくアンナや玲那さんや絵里奈さんと同じくらいでしょうか。決して<ベテラン>という印象ではないものの、自らがやるべきことを確実に丁寧に行おうとする姿勢が滲み出ていたのでした。


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