社交辞令

「フニフニのふわふわ~♡」


今日は土曜日ですが、山下さんのお宅に、ヒロ坊くんと千早が料理を作りに行きます。


するとさっそく、千早が沙奈子さんに抱きついて頬をすりつけたのです。


「いつも千早がすいません、ホントに…」


あまりに馴れ馴れしいその振る舞いに、私は申し訳なくなってしまい、思わず山下さんに頭を下げました。


けれど山下さんは、


「いえいえ、千早ちゃんが仲良くしてくれるから沙奈子も学校で上手くやれてるんだと思います。すごく助かってますよ」


と笑顔でおっしゃってくださいます。


沙奈子さんがこの方の娘さんだからこそ、千早は救われたのだと改めて実感せずにはいられません。


この方が、他人に対して攻撃的な人物であったなら、沙奈子さんもその影響を受けていたでしょう。千早もそれに反発し、素直になれていなかったと思います。


翌日の日曜日も、続けて山下さんのお宅に訪れます。


昨今、他所のお宅の子供が自宅に遊びに来ることを疎む方が増えたという話もあるようですね。それがどこまで事実であるのか、果たしてきちんと統計を取ったものなのか、たとえ統計をとったものであるとしても、過去の数字が本当に信頼たるものであったのかが分かりませんので何とも申し上げられませんが、少なくとも山下さんは歓迎してくださっていると感じています。


昔は建前が優先されて、本音では疎んでいたのが表向きでは歓迎してるふりをしていたということもあったかもしれません。


ですが、山下さんは本当に歓迎してくださっているというのが、その表情や言葉の端々から伝わってくるのです。


さりとて、千早が今の千早でなかったら、山下さんとてこのように迎え入れてはくださらなかったでしょう。


礼儀礼節は必ずしも十分に身に付いているとは言い難い千早ですが、それでも沙奈子さんを慕う気持ちは本物だと思います。


ところで、今日のメニューは餃子でした。なので、具を皮に包む作業につきましては、私もお手伝いさせてていただきます。


すでに何度か行った作業ですので、


「私もすっかり慣れました。家では作りませんが、もういつでも自分で作れそうです」


とつい口にしてしまいました。それに対して山下さんも、


「さすがにこれだけやると僕も自分で作れる気がしてきたよ」


そうおっしゃってくださいましたが、これについてはお互い、社交辞令のようなものだというのが伝わってきました。おそらく、今後も、具を皮に包むのは手伝いますが、一から自分で作ることはないでしょうね。


なにしろ、千早やヒロ坊くんや沙奈子さんが作った方が格段に美味しいでしょうから。


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