ピカお姉ちゃんのなの!

ヒロ坊くんの傍に立っていた、大学生くらいの若い女性を睨み付けながら、千早は、ヒロ坊くんの体に抱き付いて、


「ヒロはピカお姉ちゃんのなの!」


と再び声を上げました。


そんな突然の乱入者にも、女性達は笑顔のままで、


「そうなんだ! じゃあ仕方ないね。お姉ちゃんたちは諦めるわ」


「それじゃ仲良くね。ヒロちゃん、ピカちゃん」


そう言いながら手を振って、海の家を出て行ったのでした。


女性達は千早を見て『ピカちゃん』と言ってましたので、おそらく、『ピカ』とは千早自身のことだと勘違いしたのでしょう。でも、そんなことは些末な問題でした。それよりも、拗れることがなくてよかったと、私はドアの陰で胸を撫で下ろしました。


するとイチコとカナがすっと出て行って、


「何々? どうしたの?」


と尋ねます。千早はそんな二人に、


「知らない女の人が、ヒロ坊のことを『可愛い~、連れて帰りたい』とか言ってたから、『ヒロはピカお姉ちゃんのなの!』って言って追っ払ったんだ!」


フンフンと鼻息荒く説明しました。


「そっか~、相変わらずヒロ坊はモテモテだなあ」


カナが感心したように言うと、私は『確かに…』と思ってしまったりしましたが。


「どうかしたの?」


ウンウンと一人頷いていた私に、着替えを終えたフミが声を掛けてきて、


「実は…」


と経緯を説明させていただきました。


「は~、マジでヒロ坊はモテるもんね。ピカも気が気じゃないよね」


そう言いながらシャワー室を出て行くフミの後を追うように、私もようやくシャワー室から出ることができました。


出入り口でそんなことをしてても他に誰も通らなかったので邪魔にはならなかったですが、これも、まだお昼を過ぎたばかりで帰り支度をする人が殆どいなかったからでしょう。そういう意味でも混雑時を避けたのは正解でしたね。


それはさて置いて、一部始終に聞き耳を立てていた私でしたが、何食わぬ顔で合流し、昼食にすることになったのでした。




「そうですか…こういう感じですか……」


私は、山下さん、沙奈子さん、イチコと一緒にうどんを頼み、千早とヒロ坊くんはカレー、カナとフミは焼きそばを頼んで皆で昼食にしました。


そこでうどんを一口食べて、思わずそう口にしてしまったのです。


なるほど、こういうところの食事は初めてでしたが、『雰囲気を味わうものだ』と聞いていた意味がよく分かりました。正直申し上げて『美味しい』とは言い難かったのですが、だからといって、


『こんなものでよくお金を取れますね?』


とクレームをつけるのもきっと違うのでしょうね。


ただ、食事を終えていよいよ帰路に就いた時、ヒロ坊くん達に向かって、


「私の別荘では、美味しい食事を提供できると思います。楽しみにしていてください」


とは言ってしまいましたが。


それくらいはいいですよね。


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