思い切り
「うひょ~っ! 着いた着いた~っ!!」
海に着いた途端、そう浮かれた声を上げたのはカナでした。
来る途中のことについてはまるでなかったかのように明るく振る舞う彼女に、山下さんがホッとしたような様子を見せたのです。
やはり、彼女のことを気遣ってくれていたのでしょう。
だから私は、彼の傍に立ち、
「移動中はさすがに無理でしたが、私の警護をお願いしている警備会社の支店から、ガードマンを派遣してもらっています。もしトラブルになるようでしたらすぐに駆け付けてもらいますので、ご安心ください」
そう言って向けた視線の先には、私をいつも警護してくれている警備会社の自動車が止まっていたのでした。
ガードマンの件は本当です。私の為というよりは、私を守ることを建前にヒロ坊くんの安全を守ってもらうことが第一目的でしたが。
しかし、例えばカナに何者かが絡みでもすれば私は黙っていませんので、そうなれば当然、私を守る為にガードマンが駆けつけますので、結果としてはカナも守ってもらえるわけです。
私の言葉に、山下さんは少し唖然とした様子になったような気がします。一般の方では、こうしてガードマンまで常に待機させていいるというのはさすがにピンとこないでしょうか。
けれど、その後で、荷物を置く場所を決める際には、山下さんが周囲を見回し、何かを探す仕草を見せた後に、お目当てのものが見付かったのか、迷うことなくそちらに歩いて行って、監視員の方の待機場所の近くにシートを広げ始めたのでした。
「あの監視員さんが、絵里奈や玲那と顔見知りだそうで、それで」
と言いながら山下さんが視線を向けた先を見ると、大変立派な体格をした、なるほど頼りがいのありそうな監視員の方がいらっしゃったのが目に入りました。
確かにこれならばガードマンの出番はないかもしれませんね。
私も納得し、シートを広げて荷物を置いたのです。
「じゃあ、僕は荷物番してるし、みんなで楽しんだらいいよ」
場所取りが終わると山下さんがパラソルを広げつつ、沙奈子さん達の方に向かってそうおっしゃいました。
すると、沙奈子さんだけでなく、皆一斉にその場で服を脱いで水着になり、
「ひゃっは~っ!」
「うひょ~っ♡」
などと声を上げながら海へと駆け込んでいきます。
そんな様子に、多少『はしたない』とは思いつつ、
『こういう時は思い切り楽しんだらいいのでしょうね』
と、特にカナに視線を送りつつ、私も思っていました。
そう。加害者家族だからと言って何一つ楽しむことも許さないというのは、私は正しいとは思いません。
確かに被害者を蔑ろにして自分達だけが楽しんでいるのであれば好ましくないとしても、少なくともカナはそうではないのですから。
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