加害者

慟哭

千早のお姉さんである千歳さんらからイジメを受けたことでそれに耐えきれず事件を起こした市川美織さんとそのご家族がどのような目に遭ったのか、今の私には容易に想像できてしまいます。


なぜなら、カナのことをすぐそばで見ていたからです。


カナのお兄さんの事件は、結局、成人と同じ形の刑事裁判となったのですが、そこでも自身の罪を決して認めようとせず、それどころか被害女性を貶めるような発言を続けたこともあり、それが世間から猛攻撃を受ける原因となったのでした。


と言っても、本人は拘置所にいるので世間がいくら騒ごうとも届くことはありません。するとその矛先はおのずとカナ達家族へと向けられることになったのです。


判決公判が近付いたある日、いつものように、イチコの家に集まった時、自然と進行役になっていた私は切り出させていただきました。


「カナのお兄さんの裁判ですが、非常に犯情が悪く、厳しい有罪判決が出るのはほぼ確実という情勢だと思われます。そうなるとカナのお兄さんの側がすぐさま控訴するのは間違いないでしょうから、裁判の長期化は避けられないでしょうね」


するとカナは、諦め顔で、


「は~…あいつの往生際の悪さが身に沁みるわ~……なんであんなのになっちゃったんだろうね……


あいつは何がしたかったんだろう…? 自分の欲望のままに生きたかったのかな……家族のこととかどうでもよかったのかな……


あいつが親に何か仕返しがしたかったんだとしたら、ホントにもう、ものの見事に狙い通りだよ。お母さんは家を出て行って、お父さんは職場にまで嫌がらせの電話とかかかってくるようになったっていうんで仕事も辞めて今は心療内科に通って廃人同然。そのうち生活保護を申請することになるんじゃないかな。


で、生活保護を申請したら今度はそれがまたどっかから漏れてネットで、『犯罪者の親が生活保護とかフザケんな』とか叩かれるんだろうな……はぁ~、やだやだ。


家の中はもうすっかりゴミ屋敷だし、あたしの家は完全に終わったなって実感しかないよ……」


って、自嘲気味に半笑いで他人事みたいにそう言ったのです。


「……」


私達は言葉もありませんでした。カナの言いたいことをただ聞いてあげるしかできませんでした。そして、彼女の表情が変わった瞬間、空気がピリッとなるのが分かりました。


「確かにあいつは悪いことしたよ…! それで逮捕されて刑務所とか行くのは当たり前だと思うよ…! でもだからってどうして家族にまで嫌がらせするんだよ…!」


カナは俯いて、テーブルの上に置いた両手を握り締めて体を震わせながら言葉を絞り出します。


でも突然、ガバッと頭を上げて私を睨み付けるようにして見て叫ぶように言ったのです。


「おかしいだろ!? なあ、おかしいよな!? あたしらまでこんな目に遭わなきゃいけないって、おかしいんだよな!? それともあれか? 犯罪者を出すような家はこの世から消えて無くなれってか!? 犯罪者の遺伝子は全部消してしまえってか!?」


それは、まぎれもない<慟哭>でした。


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