石生蔵家

私は、千早の家庭のことも探偵に依頼して詳しく調査してもらいました。


それによって判明したことの一つとして、石生蔵家は当時、関東の某市に居を構えていて、千早のお父さんは、パチンコばかりして働こうとしない方だったそうです。しかも、せめて家のことでもすればまだしも、それさえしようとしなかったと。


私はそれを知った時、怒りすら覚えました。報告書を読んだだけの私でもそうなのですから、千早のお母さんがそのことにキレてしまっても無理はなかったのでしょう。


二人は毎日のように喧嘩をし、そしてついにある日、千早のお母さんは包丁を手にして、


「この家から出て行くかここで死ぬか、どっちかを選べ!!」


と迫ったのだとか。


その声は近所の方の耳にも届いたので、聞き込みをした際に判明したとのことです。


これをきっかけにお父さんは家を出ていき、それきりでした。


しかしそれは、この後に起こることの序章に過ぎなかったのです。


「私があんたらを守ってやったんだから感謝しな! だからあんたらも家のことをするんだよ!」


お父さんを放逐し、家庭内の全権を握ったお母さんは、近所中に響くほどの声でそう怒鳴っていたのだといいます。


それまで、お父さんが同じように子供らに怒鳴っていたものの、お母さんはそれほどではなかったのが、まるでお父さんを見倣うかのように激しく声を上げるようになったそうでした。


近所の方々もそれに眉を顰めつつも、


『あれがあの家の教育方針だから』


『お父さんがいない分、厳しく躾けないとダメだから』


と、見て見ぬふりをしたそうです。


本当に、どうしてそのようなことになってしまうのでしょう……


その後も状況は悪化の一途をたどり、当時小学生だった二人のお姉さん達の言動が怪しくなっていったと。


明らかに粗暴になり、徒党を組み、攻撃的に振る舞うようになっていったとも。


そして遂に、一番上のお姉さん、千歳さんが、小学校で起こった事件の引き金を引いてしまったのです。


それは当時、小学校の教室内で生徒が起こした事件として大きなニュースになり、私もテレビで見たニュースとして記憶に残っている程の大きな扱いとなりました。


しかし、事件を起こしたのは、千歳さんではありません。千歳さんが、他の同級生ら数人と共にイジメていた相手の女子生徒がそれに耐えかねてある時、カッターナイフを手に、千歳さんらに切りかかったという事件でした。


探偵が調べ上げたそれらの報告書を見た時の私の気持ちが分かる方はいらっしゃるでしょうか?


それはまさに、私と御手洗さんとの間で起こりかけた事件そのものだったのです……


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