ブレイクスルー その1

「今後も経過を注意深く見守っていく必要はあると思いますが、まずは千早さんへの疑いは晴らせたと考えていいと思います」


千早さんと一緒に彼の家に戻った私は、彼とイチコにそう報告させていただきました。


「良かったね、石生蔵さん」


彼とイチコがそう声を掛けると、彼女は、


「うん」


と頷きました。その表情がどこか晴れやかにも見える気がするのは、私の思い過ごしでしょうか。


また、なぜか、彼女の家からこちらに戻るまでの間も今も、ずっと私の服の裾をつまんで離れようとなさらないのです。ですから、最初は私の左手にイチコ、右手に彼、そして正面に千早さんという形で座っていたものが、今は私の左側にぴったりと寄り添って座っています。


これはいったい、どうしたことでしょう?


もう三時になるところなのでいずれにしても今日は勉強はできません。そう思っているところに、


「こんにちは~、おじゃましま~す」


とフミとカナもやってきました。すると、私に寄り添う千早さんを見て二人は、


「あ、仲良くなったんだ? すごいじゃん」


と声を上げたのです。


仲良くなった? やはり他人からはそう見えるのでしょうか?


「でもどうして急に仲良くなれたの?」


フミが尋ねてきます。


しかし私としては冷静に対処できるようになっただけで仲良くなったつもりはないので、どうしてと言われましても説明できません。


そこでイチコに助けを求めようと顔を向けたのですが、イチコはニコニコと笑顔を浮かべながら、


「さ~、どうしてだろ~」


と曖昧な返事しかしてくれませんでした。


「イチコ……」


仕方がないので私は、これまでの大まかな経緯をフミとカナに対して説明したのでした。


お姉さんからお小遣いを盗んだと疑いを掛けられた千早さんが泣きながら彼の家に向かう途中で私が乗っていたタクシーと危うく接触しそうになったこと。私が千早さんを連れて彼女の家に行き、お姉さんの誤解を解いたことなどについてです。


その話を聞いたフミとカナは、何かを察したように揃って、


「ふ~ん」


と頷きました。今の説明で何が分かったというのでしょう?


「そっか、千早ちゃん、ホントはピカお姉ちゃんみたいな優しいお姉ちゃんが欲しかったんだね?」


カナがそう尋ねました。すると千早さんが言ったのです。


「うん…だって私のお姉ちゃん、どっちもすぐ怒るし叩くし意地悪だし、大っ嫌い。だけどピカお姉ちゃんは、最初はちょっと怖くて変な人かと思ったけどすっごく優しいし、ピカお姉ちゃんが私のほんとのお姉ちゃんだったらよかった」


…怖くて変な人……? 


やっぱりそう思われていたのですね。自分のみっともないところをそのように簡潔に的確に表現されて私は少し凹みました。そう言われても仕方なかったとは自分でも思いますけど、改めて言われるとさすがに辛いです。


でも……


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