セレブガール・ミーツ・ボーイ その9
彼には少し大きすぎるくらいの箱を抱えて、狭くて急な階段を器用に上っていく彼の後を目で追いながら、「おじゃまします」と上がらせていただいて、私も残りの荷物を抱えながら慎重に階段を上っていきました。
「ピカちゃん、開けていい~?」
二階の部屋から彼がそう聞いてきましたので、もちろん「どうぞ」と返事をさせていただきます。私がようやく二階に着いた時には、もうすでにラッピングははがされ、「すげ~!」と彼が目を輝かせながら玩具の箱を眺めているところでした。
「ごめんね、ピカ。またこんなのもらっちゃって」
すでに二階で待機していたらしいイチコが、申し訳なさそうに声を掛けてきます。
「いえいえ、これは私のほんの気持ちですから」
そう答えたのは私の本当の気持ちです。これは私が好きでやってることなのですから、どうぞ遠慮なさらないでください。
そういうやり取りをしている間にも彼は箱を開けて、玩具の部品を取り出して、説明書を見ながらではありますがみるみる組み立てていきました。さすが男の子ですね。その姿も楽しそうで、喜んでいただけたみたいで私はとても満足でした。
その後、本来の今日の主賓であるカナが来て、そのすぐ後でフミもやってきました。けれど彼は組み上がったビルの玩具に夢中で、そこにいくつもミニカーを走らせていました。その玩具はモーターでミニカーを上へと持ち上げて、レールのような坂道を下らせて、それをまたモーターが上へと持ち上げてという形で、延々とミニカーを走らせ続けるという玩具でした。
「それ、カッコいいな、ヒロ坊」
カナが声を掛けると、
「ピカちゃんにもらったの!」
と彼が嬉しそうに答えてくれます。するとカナとフミが、何やらニヤニヤと笑いながら私を見たのでした。
「ピカはマジでヒロ坊に夢中なんだな」とカナが言い、
「これは私達じゃ到底かなわないや」とフミが肩をすくめます。
そうです。それだけ私は本気だということです。誰にも文句は言わせません。
でも、肝心のカナの誕生パーティの方は、私が持ってきたイチゴムースのミニケーキを彼も含めた皆でいただいているとき以外は、玩具の騒音の中で執り行われることになってしまったのですけれど。しかも途中からイチコとカナとフミも一緒になって彼の玩具で遊び始めてしまって、さすがにこれは少し失敗だったかなと思いました。
それでも皆で楽しい時間を過ごせたことには間違いありませんでしたし、私は彼が楽しそうにしてる姿をたくさん写真に収められましたし、カナへのプレゼントも渡せましたので結果としては良いパーティだった気がします。
ですが……
三時間ほどたっぷり楽しんで、そろそろ解散となった時、カナとフミは先に家を出て、「じゃあ、またね」と帰って行ったのですが、彼と離れたくなくて私はゆっくり帰る用意をしていたのでした。それでもいつまでもそうしてはいられません。名残惜しいですが、彼に見送ってもらい玄関から出た時、不意に「ごめん」と声を掛けられたのでした。
「ちょっと、いいかな」
それは、彼のお父さんでした。お父さんが珍しく起きてこられたということは、彼へのプレゼントのお礼でもしてくださるのかと思いました。『いえいえ、これは私の気持ちですから』と次のセリフを頭に思い浮かべていた私の前で、お父さんが急に深々と頭を下げられたのです。
「申し訳ない。ヒロ坊へのプレゼントは、しばらく控えてほしい」
…え……?
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