セレブガール・ミーツ・ボーイ その4

「おねえちゃんの友だち? おねえちゃん、友だちだよ~」


私を見た天使のような男の子が家の奥に向かって声を掛けると、Tシャツに膝丈のチノパン姿のイチコが姿を現しました。


「いらっしゃ~い。二階へ上がって~」


天使のような男の子の出現に舞い上がっていた私でしたが、いつもと変わらないイチコの様子に少し冷静になって、「お邪魔いたします」と答えて上がらせていただこうとしました。


なのにその瞬間、体が固まってしまいます。可愛い男の子に見惚れて見えていなかった玄関の様子に改めて気付いて、私は思わず動きが止まってしまったのです。


元から狭い玄関に買い物袋などが雑然と置かれて、それはまさにテレビなどで見るゴミ屋敷の始まりを窺わせる様相でした。まさか、このイチコの家がこんな状態だったなんて。


「おじゃましま~す」


「こんちはヒロ坊」


それなのにフミとカナは全く気にする様子もなくそう言って、まるで梯子のように狭くて急な階段をあの男の子を先頭にしてイチコに続いて上って行ってしまいました。


「早くおいでよ、ピカ~」


階段の上からフミが言います。


その声に私は気を取り直し、意を決して上がりました。そして靴を揃えて置いたのですが、フミとカナのカナの脱ぎっぱなしの靴が気になってついでに揃えました。どうして私がこんなことをしなければいけないのでしょう? 釈然としない気分のまま、手を着いてでないと上れない梯子のような階段を上ってようやく二階へと辿り着きました。ですがそこも、オモチャや本が壁に寄せて雑然と積み上げられた、清潔感の欠片もない部屋でした。


正直、私は後悔していました。こんなことなら私が全員分の代金を払ってでもファミリーレストラン辺りに集合すればよかったと思いました。でもそんな私を、フミとカナは二人してニヤニヤと笑いながら見ていたのです。


上流階級とまではさすがに思っていませんでしたけど、イチコの家がまさかここまで下流だとは私は想定していませんでした。彼女の鷹揚さと器の謎を解くべく私はここに来て、彼女の家庭を見れば核心に迫れるかと思っていたのですが、ますます謎は深まるばかりです。それどころか、もう、混乱していると言った方が良いかも知れません。


部屋の中でニヤニヤと笑うフミとカナの目が、『あなたはここまで来れるのかな?』と言っているように思えてきます。正直言って帰りたい。でも、ここで帰ってしまっては逃げ出したようで悔しいと感じてしまうのも事実です。私は覚悟を決めて、六畳程度の狭い和室に置かれた小さなテーブルの空いたところに座りました。気のせいか、畳がざらざらしているようにも感じます。


私は自分が極度の潔癖症でなかったことを初めてありがたいと感じました。潔癖症であったなら、恐らく玄関のところでそれこそ逃げ出していたでしょう。


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