第4話 躁病

入院してすぐ、私は一人の女性と仲良くなった。

名前は、由加里さん。

入院生活に慣れてるようで、三人子供がいる主婦の方だった。


「大丈夫だよー。すぐでれるよー」

「もう、本当、どうしたらいいか」


戸惑う私に何度も励ましの声をかけてくれ、自分の娘の話をしてくれ、連絡先を教えてくれた。


ひとつ疑問だったのが、この普通に見える由加里さんは、なぜここに来たのだろう、というものだった。


「夜中に、家族にころされると思って、助けてー助けてーって叫んだの。そしたら、顔踏まれるようにして車に詰め込まれて、気づいたら下着姿で保護室。2日間くらい、ずっと大泣きして壁蹴ってたわ」


保護室…?!


割と、いや、だいぶ、重い症状だったのだ。


「私、パリピの母ちゃんで通ってるの。ずーっと喋ってるから、娘には嫌がられるんだけどね」

「さんまさんみたいで、いいじゃないですか」


躁状態…。


そう、由加里さんはずっとこの調子だった。いろんな人に話しかけては、看護師さんにも気楽に話しかける。そして、病棟内をずっと歩き回って、話し続けていた。


「入院には、慣れているんですか?」

「私、前はここに2ヶ月いたんだけど。今回は早くだしてもらわないと困るの。薬、飲み忘れていたのよ。それに、この病院はいいわよ。他の病院は、お風呂も大浴場だし、患者もすごい人いるし、大変。だけどここは、毎日お風呂に入れるし、個室だし、大浴場でもないし」


大浴場…

絶対、嫌だ…


ここは、すべて3カ所に区切られている。


お風呂も3カ所あるし、テレビを見るリビングスペースも3カ所、部屋も要保護と安定の男女と3カ所、ある。


そして、私は要保護のゾーンに今いて、由加里さんは、安定ゾーンにいた。


「1週間、私の方が早く入院したから」由加里さんは笑った。


私は由加里さんと、由加里さんがこれからずっと一緒にいる林さんというイケメンなおじさんと、3人で話すことになった。


由加里さんは、林さんのことを心配していて、林さんも由加里さんにつきっきりだった。3人でいると、まるで、親子のようだ、と私は思った。

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