春日と局
清泉 四季
第1話 春日(かすが)と局(つぼね)
私はお嬢様学校として有名な私立の女子高に通っている。
そこでは生徒会が権力を握っていて、生徒間のトラブルを未然に防いでいた。
いじめや仲間はずれがあるということが噂になれば、学校のブランドに傷がつくし、ひいては自分たちにも不利だ。でも、どうしてもいざこざは起きてしまう。
生徒会長は
だけど実際にトラブルをチェックしていたのは生徒会長の
三年生のとき、私のパートナーの春日は、今まで私と全く仲良くなかったのに私を局に指名してきた。『地味なあなたに向いてると思うのよね。ああ、一般の生徒は局の存在を知らないからバレないようにしてね。』そう聞いたとき、納得した。今までどうやって大奥が生徒間のトラブルを知りえたのか疑問に思っていたから。
私は局になることを引き受けた。だって、一年生のとき、クラスでいじめられていた私を先々代の春日局が助けてくれたんだもの。
そう、春日と局、二人で春日局だった――。
「局は優秀ね。あなたのおかげで大ごとになる前に対処できるから、先生方に報告する不名誉なことがほとんどなくて私も助かっているわ。」
春日は黒いストレートヘアをさらりと肩の後ろへ流す。
副会長の滝山さんや書記の絵島さん、会計の稲葉さんの美女大奥に地味なショートヘアの私がメンバーの定例報告会。
「料理部のパワハラ疑惑はもう少しだけ調べさせて。」
「仕方ないわね。期限は今週いっぱいよ。やられている子たちが持たないようだったらそれより前に大奥で乗り込むわ。」
「誰っ!ここにこの布巾を置いたのは!」
「おっそいわねえ。いつまでもたもたやってるの。」
「もっと早くできないの?なによ、そのネギの切り方。太すぎっ!」
「そんなことじゃ間に合わないわよ、まったく。あっそれはそこに置くんじゃないでしょ!」
「この鍋、まだ汚れが付いてるわよ、きちんと洗いなさいよ!」
料理部はもともとお嬢さん部員たちがクッキーやケーキを焼いてのんびり楽しむ部活だった。しかし、二年生で転入してきた矢田さんという人が次第に力を持ち始め、いろいろとおかずなんかを作り始めた。そこまではまだよかったけど、エスカレートして、厳しいことを言いだしている。
他の部員はびくびくしているし、これは完全アウトだな。
「だれっそこにいるのは!」
「あの、図書委員です。リクエストのあった料理本が届いたので。」
「ありがと。」
矢島さんは私からひったくるように本をとる。クラスバッチの色から私が上級生であることはわかっているのにこの態度。周りの料理部員は凍り付いていた。
「アウトです。音声も取れました。」
私が録音してきたボイスレコーダーを大奥全員で聞く。
「これはだいぶ進んじゃってるわね。局にしては遅いじゃないの。時間がもったいない、今から踏み込むわよ。」
大奥のお出ましだ。もちろん私は同席しない。
「生徒会は料理部に問題ありと判断しました。」
調理室に踏み込み、副会長が冷静に告げる。生徒会のことをよく知っている料理部員たちは声も出せないで引きつった顔をしている。書記が作業台の引き出しからボイスレコーダーを取り出す。局の存在を隠すために、もともと仕掛けておいたものだが、私の録音したものも念のため春日に渡してある。会計が録音を再生する。
「この声の主は、矢田さんですね。」
「な、なによ、これくらい大したことじゃないでしょ!」
「矢田さん、大奥に逆らってはダメよ!」
料理部員がなだめようとするのを振り払う矢田さん。
「反省するどころか、開き直りですか。残念だけどこの学校では許されないのよ。生徒会長、申し渡しを。」
「矢田さんは料理部退部、そして高校在学中どの部活に入部することも禁止します。転入生だから知らないかもしれませんが、生徒会長の申し渡しが不服であれば、先生方に報告します。その場合、百パーセント大学への内部進学はなくなります。それから二度目に問題を起こしたときはすぐに先生方に報告が行きます。」
「そんな、たかが生徒会が!」
「たかが生徒会、そうですね。ですが私たちの後ろには歴代の生徒会役員のОB―それが本当の意味での大奥―が控えています。現在の生徒会役員だけが大奥じゃないのよ。大奥メンバーは本人が有力な本校の理事であったり、多額の寄付金をして下さる方も何人もいるわ。ああ、校長先生も元生徒会会長だったから言動には気をつけてね。」
「あの、矢田さんが反省して優しくなってくれるなら、退部じゃなくても…。」
料理部の部員の一人が遠慮がちに言う。
「料理が上手くていろいろと教えてくれたし。」
それに同調する子もいた。
「料理部部長は?」
「こうなってしまったのには私たちにも責任があります。一度だけチャンスを下さいませんか。それでだめなら私が退部を言い渡します。」
「めでたしめでたしって言いたいけどね。」
生徒会室に帰ってきた春日はどさりとソファに座った。
報告書のファイルに記入してパタンと閉じる。
「ああいう目つきの女は、ほとぼりが冷めたらまたってパターンじゃないの?」
副会長は冷静に言い放つ。
「なんにせよ、局は引き続き目を光らせておいて。何かあったら二度目だから即、先生の生徒指導室行きよ。神様じゃないんだから全部は解決できないわ。」
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