第1話−14

14




「入れ!」




蹴飛ばすようなベアルド兵士の叫びが若者たちの背中を押すと同時に、銃口を巨体に向けて鉛の矢を放射する。




この事態は彼らの上部で安全を掴もうとする避難民たつかん悲鳴に変え、慟哭と懇願がゲートへ向けられていた。なんとか宇宙港に入ろうとする者たち。しかし後ろでは宇宙への脱出を諦め、橋へ通じる道を、あの地獄の街へ踵を返す者もいた。




誰しもが理解している。逃げ込める場所など何処にもないのだと。




連絡通路から人工島に若者たちを無理に押し込む若い兵士だったが、空が暗くなったと思った時、空気を焼き切り、吸盤が牙のように生えた職種が、腐敗臭を散布しつつ、橋めがけ降り下ろされた。




チタンであろうとこれほどの重量と加速を受け止められはせず、海面へと橋は落下したのだった。




「マリアァ!」




マキナの半狂乱した悲鳴が、脈動する触手に向けた。肉の壁にしか見えないそれは、落下とは異なり、ゆっくりと大蛇が茂みへ隠れるかのごとく、海面へと抜けていく。




するとなにを思ったわのか、巨体は海面に渦を巻くと白波を起こし、海底へと沈んでいった。まるで満足したかのように。




デヴィルズチルドレンのいなくなった後には、橋に溢れていた人々が波間に漂っていた。背中を丸め、頭を海面につけ、力は抜けている。そこに生命の鼓動はない。




ニノラが通路を見渡すと、メシア、マリア、神父、ブル兵士の姿が見えなかった。




人が泡のように命を散らせていく。まるで無価値になったかのように。この嫌気が込み上げる現実を前として、ニノラはうわ言のように呟いた。破棄などはどこにもない。




「逃げよう。ここに居たところで、事態は解決しない」




頭を大きく、何度と横に振って、小柄のつかんマキナは彼の提案を否定した。




「マリアを助けなきゃ。このままなんかにしてーー」




と、分厚く白い東洋人の手が小さな肩を掴んだ。意味は言うまでもない。イ・ヴェンスは無意味なことだと、見上げた彼女の顔に示した。




「こんなとこらから早く出ましょうよ。気味が悪いわ」




人の命が失われた。状況を見たところで、自らの思考をエゴイズムの上に上げることを信念とするジェイミーは、平然と言ってのけ、先へ進もうとする。




背後に立つ東洋人を押し退け、ニノラが冷静さを促すべく伸ばした腕を払い、彼女はチタンを踏み鳴らした。




いちいちジェイミーの言動が腹立たしいイラートが素早く、彼女の後ろへ回り込み苛立ちを彼女へ叩きつけた。




「どんだけ冷たい血がながれてんだよ。人が死んじまったんだぜ!」




小さな彼女の肩を、握りしめた少年のようなイラート。


「ったい!」




皮膚に食い込む指を彼女が振り払った刹那、衝撃で床のネジが緩んでいたのか、海水を排水する大きな穴へ、イラート、ジェイミーが抜け床とともに落下し、ジェイミーが思わず掴んだニノラの足首も引かれ、彼もまた落下した。




ニノラはイ・ヴェンスに腕を伸ばした。




太い幹のような腕が黒人の腕をしっかりと握った。が、人間3人の重さを支えられるほど、彼の筋力は強靭でなく、彼もまた落下していった。




エリザベスは弟たちが落下した穴を、眼を剥いて見るとすぐさま、牙のような視線をファンに移した。床の金具は劣化などではない事実を、彼女は理解し、それが誰の仕業かもハッキリと把握しているのだ。目の前に立つ面長の男の所業なのだと。




睨み付けるエリザベスの眼差しには、稲妻がかんだ。幻覚や覇気などではない。本当の電気が瞳に走っていた。




第1話ー15へ続く

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