第6話 言ってしまった言葉

言ってしまった言葉は消せません


忘れることはできます

でも忘れる言葉は選べません


忘れたくない言葉も

忘れることがあります



言ってしまった言葉は

言った事実は変えられません

取り消すことはできません

なかったことにして

そんなこと言いましたっけね

取り繕ったって消えません


過去には帰れない

言ってしまった言葉は

放り投げても

土に埋めても

真白なシャツに滲んだ血痕みたいに

洗濯しても消えません

こすって揉んでも

残るもの


なかったことにはできません

たとえ白く見えても

この白はかつて赤かった白です

それが事実です



言ってしまった言葉は

食べても

消化はしません

いっそ夢の島に置いて来られれば

吐いては棄て

もらっては棄て

得意げに

憎しみを込めて

また捨て

また捨て

繰り返し

私達は歳をとっていく


言わずに後悔するくらいなら

言って後悔した方がいいと言った人

そういう人は優しくない

私よりは無神経

私より賢い人


私は

言ってしまった後悔よりも

言わなかった後悔の方が好きだな

後悔を愛することができる

私は

そういう人



言ってしまった言葉は消せません

あなたの激しさを

私は許そうと

許そうと

許そうと

するほどに

あなたの激しさを

憎み

感心します

そんな自分を

憎しみ

呆れながらも愛しいと思ってしまう


あなたの言ってしまった言葉を

私は

呪いのように呟き

今晩のシチューと煮込み

湯気にして遊ぶ

できたシチューを

あなたに出します



あなたを憎んでいます

愛してもいます

口をついて出た悪魔のような言葉すらも

数式のように聞こえます

反芻して

反芻して

私はやはり

傷ついた

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