9,照れ笑いのサザンビーチ
パーティーは20分遅れで始まった。まず壇上でゴツい幹事の男が挨拶。たぶん同い年。
会場にいるほとんどがワイワイガヤガヤ談笑する中、わたしはひとり、みりんと醤油のバランスが絶妙な湘南江の島タコせんべいをサクサクかじり、ビールをぐびぐび飲む。
ぷはー、うまいね。
門沢さんも未砂記ちゃんも浸地ちゃんも、遠くで同級生たちとおしゃべりしてる。
おや、猫島くんもぼっちじゃないか。
わたしは2メートル左の壁際で何をするでもなく手を腹の前に組み、ホテルマンやデパートのバイヤーのような謙虚な姿勢で立っている猫島くんの隣に寄った。
「猫島くん。絵、すごく感動したよ」
「あ、ありがとうございます。森崎さんの小説も、ポップで面白いです」
「ありがとうございます」
わたしは深々と頭を垂れ、「どうもどうも」の応酬が三度続き、収拾がつかないからわたしから話題を切り替えた。
「なんか、きょうは猫島くんに会えて良かったよ」
コミュ障なりに言葉を紡いだ。
「僕も、森崎さんに会えて良かった」
わたしの言葉をおうむ返しする猫島くんは口調も挙動もたどたどしくて、照れ臭そう。
なんだかわたしも、ちょっと照れ臭くなった。
「ありがとう、なんだか照れるね」
わたしが照れ笑いすると、彼も釣られて鈍く笑んだ。
「うん。でも、本当に良かった。感性に合う創作をしている人には、なかなか出逢えないから」
確かに。世界に創作家は数多。けれど自分の感性に合う作品を生み出す人にはなかなか出逢えない。わたしはキャラクターに物語を感じられる作品が好き。それが小説でもイラストでも、漫画でもアニメでも実写でも。
「わたしもね、猫島くんのイラスト、すごく感性にフィットしたよ。あの崖っぷちで葉巻吸ってる男の人の絵、見てて胸がギュッて、苦しくなったの。あぁ、この人はきっと、誰にも見せたくない涙を拭うために、愛車に身を預けてここへ来たんだ。彼の身にはどんなことが起きたのかなって、想像しちゃった」
「ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたら良いか」
感情を露にしない猫島くんだけど、わかる、この感じ。わたしも誉められてうれしいとき、苦笑で恐縮する。
「いやいや、わたしなんぞにそんな恐縮していただかなくても。それよりも、これから猫島くんがどんな絵を描くのか、楽しみにしてるね」
「あ、はい」
「ふふ」
互いに照れ笑い。なんだ、中学のときから仲良くしていれば良かったな。楽しかっただろうし、いじめられていても、拠り所があった。
このあと、三十路だらけの電車ごっこやビンゴゲームをして、一次会はお開きになった。
すっかり日が暮れた3時間後の18時、サザンビーチ海水浴場前のハワイ料理店を貸し切り、同じ中学の卒業生だけで二次会が始まった。
店の前に燃え盛る
「おー夢叶!! 久しぶりだな!!」
誰だかわからない大きなアンチャンが駆け寄ってきて、脇で首をがっしりホールドされた。さっきは猫島くんが門沢さんにやられてたけど、ヤンキーはそういう生態なのかな。
「おー森崎!! 俺だよ俺!!」
「アタシのこと覚えてる!?」
「ぎゃー夢ちゃん!! 来てくれたんだあ!!」
雌雄4体に抱き付かれ、面影からなんとなくあの人じゃないかなと推測してあだ名や名字を言うと、4発4中、全員当たった。良かった、間違えなくて。
彼らが陣取っていたテーブルに呼ばれ、カシスオレンジをぐびぐび飲みながら、ハイビスカスが添えられたシーザーサラダを頬張る。それぞれの近況報告、仕事の話、雑談。中学生当時は苦手なタイプだったけど、時の流れは不思議なもので、いまは普通に会話できる。
もしかしたらわたしは、意外と周囲から愛されているのかもしれない。そんな都合の良い解釈をしながら、酒と料理を流し込んだ。
斜め後ろ、窓側のテーブルでは、猫島くんが美人グループ四人に交じって談笑している。そのうちどうしても一人の名前が浮かばない猫島くんに彼女は「ねえ! なんでわたしだけわかんないの!?」と不機嫌気味。
あのころはあまり口を開かなかった彼もまた、不馴れな人と会話できるようになっている。
陰キャなわたしや彼も、やんちゃな彼らも美人なあの子も大人になって、心の
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