竜と水面に光る街・上巻
秋月ひかる
プロローグ
エドことエドヴァルド・アウストレームは竜が見える。
それは何かの比喩ではなく——例えば学校帰りの道のど真ん中であったり、何気なく足を伸ばした山の頂だったり、ふと見上げた空であったり——そんな日常の中に、彼らは文字通り、ふいに彼の前に姿を現すのだ。
エドの知る限り、竜は深い知性と穏やかさを持ちながらも、非常に茶目っ気がある。
彼らは決まって、思いもよらない場面で姿を現しては、度肝を抜かれて立ち尽くす彼を見て、実に嬉しそうに飛び去っていくのだった。
彼らが見えるのが自分だけだと、いつしか理解するようになり、心の中にその優しい秘密を抱えてエドは成長していく。
それは時に彼をワクワクさせ、時に彼を思い悩ませもし、そして時に心の支えとなった。
諦めにも似た気持ちで現実を受け入れてからは、たとえその姿が見えない時にでも、吹き抜ける一陣の風や、木々のざわめき、波の唸り声にすら、彼らの存在を感じることができた。
そんな日常から受けた影響のひとつなのだろう。本や映画は好きでも、一貫してファンタジーの類いは嫌いだった。
そこではたいてい、邪悪で知性のない、倒すべき敵(かたき)役として竜は描かれていたから。
もしくは、使役し、利用する道具として。
彼らは自由であるべきだった。彼らは自由ではなかった。
だからこそエド自身もまた、自由ではなかった。
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