ハーフボーイ・ミーツ・口裂けガール

平中なごん

一 外出

 その日、ずっと部屋に引きこもっていた僕は、思いきって外の世界へ出てみることにした……。


 何が理由だったのか、自分でも正確なところはよくわからない。


 ただ一つには、それまで毎日、窓越しに見ていた夕焼けの景色が、その日は一段と綺麗に映ったということはあるのかもしれない。


 きっと僕は、その赤く染まった未知の世界にずっと憧れていたのだろう……。


 先生・・のものだろうか? まずはロッカーにあったフード付きのロングコートを借りて念入りに着込むと、そのフードを用心深く目深にかぶる。


 僕は他の人達とだいぶ違う容貌をしているので自分に自信がなく、人に顔を見られたくないのだ。


 僕の顔を見れば、きっと誰もが驚きと嫌悪を顕わにすることだろう。


 僕がここにずっと引きこもっていたのも、多くはそのことに起因している。


 だが、もう夕暮れも近いし、陽の光の弱いこの時間帯なら、フードさえかぶっていればなんとか大丈夫だろう。


 それでも、なるべくならば、あまり人には出会いたくないけど……。


 ともかくも、準備を整えた僕は薬臭いその部屋を出て、唯一、僕の知る世界だったその鉄筋コンクリートの建物も後にすると、憧れだった外に広がる世界へと一歩足を踏み出した。


 時が止まったかのような静寂の中、山の稜線に沈みゆく太陽の光に照らし出され、すべてが美しいオレンジ色に染まった一面の景色……暖かいような、それでいてどこか少し肌寒いような、夕暮れ時の風が僕の半分朽ちたような顔を優しく撫でつける……屋外を吹く自然な風に当たるのもこれが初めてである。


「美しい……なんて世界は美しいんだ……」


 初めて触れる外世界は、すべてが新鮮で刺激的だった。


 気がつくと、僕は熱に浮かされるようにして歩き出し、他人ひとと出会う危険性も忘れて住処を遠く離れていた。


 それでも、人とすれ違う時は目深にかぶったフードの端をさらに引っ張り、俯き加減にけして顏を見られないように注意しながらではあるが……。


 犬の散歩をする人やジョギング中の部活動の子が行き交う土手沿いの道……こども達がはしゃぎ遊ぶ神社の境内……帰宅する学生やサラリーマン達が屯する駅前の広場……まるで普通の人間にでもなったかのように、僕は夕暮れの街を散策した。


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