この高校生活、部活動、世界、みんな吹っ飛ばないかな
シルバーブルーム
突然窓の外を見ていたら女子高生が落ちていった
私立
この春、東京都郊外にあるごく普通の私立校虹色学園の高等部に所属する高校1年生になったばかりだ。まだ4月になって入学式も済ませたばかりの頃で、夕方になれば春になったというのに急に寒くなってくる時分だった。
慣れない高校生活をようやくスタートさせたばかりという感じもあったが、未だ友人と呼べる関係の人間関係も無く部活動やクラブ活動にも参加しているわけでもなく、ただボンヤリと窓の外を眺めている今の時間が放課後直後の俺のひと時の日課でもあった。
そして、暮れ行く夕焼けの情景と遠くに見える丹沢山系の黒々とした山影を眺めながら、いつもの様にボンヤリと時間の移りゆく感慨と感覚を楽しんでいた時だ。俺はそんな時、最近ちょくちょく見るようになったある変な夢の事を思い出していた。
その変な夢というのは・・・高い高い澄み切った青空の上で、俺が浮いていると、どこからか声が聞こえてくるのだ・・・。「人の子よ。魂はこの星の重力に引き寄せられ、死してもなお決してこの星の煉獄から解き放たれない哀れな存在よ。動の世界、実数の世界から魂を解放せよ。静の世界へと魂を解放せよ。」と厳かな男とも女ともつかぬ声がはるか高みからそう語りかけてくる・・・。そんな夢だった。
と、いきなり突然一人の、明らかに虹色学園高等部の制服を着た女生徒と思しき物体がヒュツと窓の外から逆さまに落下していったのが、網膜に飛び込んできた。
女子生徒の落下を目撃したのも驚きだが、その女子生徒の目と俺の目が一瞬、合ってしまったことに例えようもない動揺が、俺の胸の中をたちまち駆け巡っていった。
「ああっ!。」と叫んでしまい、俺はすぐに立ち上がって窓をガラリと開けて下を見た。(これは、近頃はやりの自殺じゃないのか・・・・。)と思ったのだ。
窓を開けるとまだ寒い春の夜風が室内にふあっと流れ込んできたが、かまわず下を見て、「人が今、落ちていったぞ!。」と思わず叫んでしまった。
たちまち何人かの同級生が駆け寄り同じように窓の外を見てみるが、不思議なことに落下して行った女子生徒の体らしき物はおろか、何も下には変わった様子がなかったのだった。
「おいおい、寝ぼけるのは家で寝てからにしてくれよな。」と他の同級生の男子生徒から呆れた様な声で咎められる。他に駆け付けた同級生たちも外の様子に変化がないと分かると皆、各自の本来の行動に戻っていった。ちなみに俺の所属する学級は1年C組だ。
しかし、俺には先ほど見た一瞬の出来事がどうしても夢まぼろしの類であるとはとても思えなかった。たしかに女子生徒だった。もう一度、記憶を手繰り寄せる様に回顧してみると、制服の状況から高等部2年生のように思われた。高等部女子の制服は、上着はワインレッドのブレザーと赤いベストで、スカートは地は同じく赤だがタータンチェックの入ったものだった。ネクタイが緑だったので高等部2年生だと思われる。髪はストレートで長くうりざね形の顔立ちで、目が一瞬合ったのだが・・・・そう、たしかに彼女の目は「笑っていた」のだった。俺は少し気味が悪くなってきた。
どうして、女子高生が3階の高さの教室の窓の外から落下して行ったのか、なぜ笑っていたのか。そして他の者にはその不思議な光景を見た者が誰もいない様子であった。何より不思議なのは、落下した女子高生の死体や激突した際の血肉等が一切残っていない事実だった。これでは、他人に話しをしたところで信じてもらえる可能性はほぼ皆無だろう。それとも本当に夢や幻を白昼夢のごとく見てしまったのだろうか。俺は自分でも何がなんだか分からない心境になってきてしまった。
下校時刻がほどなく過ぎてから、俺は女子高生が落下したと思われる地点へと足を運んでみた。ちょうど自分の教室がある3階の真下にあたる所で、何もないコンクリートの地面が延々と続くだけの寂しい場所だった。いろいろと確認をして見たが、やはり血痕はおろか塵一つ落ちていない整然とした状況だった。俺はやはり夢でも見たのだろうかと感慨に耽っていた時だった。
「アラ、やっぱりあの時の男子よね。」と凛々しい清楚な声が俺の背後からかかったのだ。ハッとして振り向くとそこには、当校の高等部2年生の女子制服を纏った嫋やかな女子生徒の姿があった。
長い黒髪のストレートヘアにうりざね顔の整った気品のある顔立ち、背も150センチメートルはあろうかという当校の女子生徒にしてはやや長身な、高等部2年生の女子生徒がこちらを腕組みしながら立って見ている。
「あ、アンタは・・・やっぱりさっき落ちていった人ですよね!?。」と俺は思わず彼女に尋ねてしまった。
女子生徒は俺の質問には答えず、探るような表情で「あなた・・・アタシがあそこから落ちてきたことをどうして知っているのかしら。いや、あの状況を見ることができたと言うべきかしらね。」とわけの分からぬことを言い出した。
「俺は、アンタが落ちてきたところをたしかに見たんだ。誰も信じてくれなかったんだけどね。でも、ここにアンタがいるってことは、やっぱり俺の見たことは真実だったんだな。」と俺は叫んだ。彼女は俺の叫ぶ声を聞き流すように微かな微笑を浮かべていたが、やがて「ふふっ・・・。そう、アレを見ることができるんだあ。アナタ、特異点的体質の人間なのね。ウチの学校にいたのも、偶然なのかな。」と他人事の様な調子だ。
「そんなことより、なんで落ちていたのに生きているんだあ???。フツー、死ぬだろあの高さからじゃ。自殺したんじゃないかって思ったんだぜ。」と俺が言うと、1年先輩のその女子は「アナタに理由なんて説明する権利も義務もないけど・・・あそこから落ちたように見えたというのは、錯覚でもなんでもないわ。事実よ。」
「ただ、アタシは落ちたのではなくて、次元ポケットを通過して3次元のこの世界から4次元の世界を通ってまた戻っただけなのですけど。」と長い黒髪を波打たせるように右手でかきあげるとツンとした表情でそう言い放った。俺的には気に入らない態度の女だった。いくら先輩とはいえ、高飛車な態度、先ほどから人を上から目線で見下しているような話しぶり、場合によっては校内で大事件になるかも知れないおかしな事象が起きているというのにこの何でもないわ、的な表情に俺は呆れるとともにこの女、頭がおかしいんじゃないの、いっそ文句の一つでも言ってやろうかという気持ちがムラムラと起こってきた。
「なに、わけの分からないことを言ってるんだ?。ごまかそうとでもしているのか。3次元から4次元へだって?そんなこと・・・・。」とそこまで言いかけて俺はハタと言葉が続かなくなった。
(まてよ、3次元から4次元って・・・もしかしてこの女、人間じゃないのか?宇宙人とかだったりして?。)と少し別の興味を持ち始めた。
「さ、3次元から4次元へって・・・どうしてそんなことがアンタにできるんだ?。も、もしかして宇宙人!?。」と目を白黒させながら、俺が尋ねると相手は「ホホホ。」と妖艶な笑いを浮かべた。
「なに、言ってるの、アナタ。アタシは人間よ。といってもこの特殊能力に関して言うならば、人間だけどミュータントの類と言ったところかしらね。」と女。
女は妖艶な眼差しで「でもアタシにとっては、そんなことより、アナタ自身に興味があるわ。どうして、あの場面を知覚して見ることができたのかしら。もし本当に見ることができたなら、アナタもアタシと同じミュータント、つまり同類ということになるわけだけど。」とスゲーことを女が唐突に喋る。
「だって、普通の人間には見えないはずだから、絶対に。」とその女は言い切った。
俺はさっき見たことが他人には見えないが自分には見えたという事実、そのことを落ちていった対象である2年生らしい先輩女子に指摘されて、何か異次元の空間にでも彷徨い出てしまったんじゃないか、本当にここは現実世界なのかと疑うほどに混乱していた。
「じ、じゃあさっき見たことは夢ではなく、やっぱ現実なんだよね。アレ、俺にしか見えなかったんだよね。」と喘ぐように女に問う。
「そうよ。アナタが見たことは全部事実だし、現実の事よ。だけど、それを他人に話しても誰も信じてはくれないと思うわ。あの時、アタシは別の次元空間に移動していたんだけど、それは特殊な能力を持っている人間にしか認識できない事だったから。」
「だから、アナタがあれを見ることができたというのなら、それはアナタがアタシと同じ特殊な能力を持った特異点的体質の人間、つまりミュータントとアタシたちは言うけど、同じ能力者ってことになるわね。」と先輩女子。
俺は、あまり年上の他人女性と話したことがないせいなのか、その妖艶な女子を目の前にドギマギしながら「特殊な能力って・・・。一体、俺にどんな能力があるんですか?。」と訊いた。
すると「それは、まだ判らないわ。でもアタシとまた会ってみない?。そうしたら判る様になるんじゃないかしら。」と微笑みながら彼女はそう言った。俺は自然にごくりと生唾を飲み込んで、彼女の横顔をしげしげと見やったのだった。
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