2001年の流れ星
さばアルゴリズム
第1話
トランクってどこにあるんだっけ――と思いながら、押し入れの戸を開けた。すぐに埃をかぶった望遠鏡が目に入った。
「こんなところにあったんだ」
というと、
「もうずっと使ってないけど、捨てるには勿体ないしね。持っていく?」
と母がいった。
望遠鏡を買ってもらったのはたしか小学生のときだ。わたしは星とか宇宙が好きな子供だった。でも、他に好きなものも増えて、いつのまにか望遠鏡を使うことも、その存在すら忘れてしまっていた。
「どうしようかな。かさばるし......」
「でも、大学の近くは星がきれいに見えるんじゃない?」
わたしは、この春から北の大学に通うことになっている。わたしが興味を持った分野では、その大学が一番なのだ。そうして、一人暮らしをする決心をした。両親ははじめ娘の一人暮らしに反対だった。でも、一生懸命勉強する姿をみせると、次第に応援してくれるようになった。
「そういえば......」
そういったのは母だった。
「昔、流れ星を見に行ったの、覚えてる? まだ小さかったから覚えてないかな」
覚えてる。でも、忘れてた。
「しし座流星群、だっけ?」
「ただのしし座流星群じゃなかったのよ。三十三年ぶりの大出現だったんだから」
ああ、そっか......。記憶のもやが晴れていくような不思議な感覚に襲われた。
寒い季節だった。わたしは夜に出かけられるというだけで嬉しくて上機嫌だった。車で向かったのは町明かりを逃れた丘の公園だ。駐車場にブルーシートを敷いて、星が流れてくるのを待った。母は暖かくしなさいと毛布を掛けてくれた。父は握ってなさいと温かい缶ココアを買ってくれた。
流星雨という言葉がぴったりの夜だった。
飴細工のように尾を引く光の粒が、夜空を斜めに落ちていく。窓ガラスを滑り落ちるしずくのように、次々と流れていく。
――そっか、あれから星が好きになったんだ。
「やっぱり、持っていくことにする。なんかまた星見たくなっちゃった」
そう。じゃあ、宅配にださないとね、という母は少し嬉しそうだった。
2001年の流れ星 さばアルゴリズム @saba-algorithm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます