第4話 まだ4話目だってのに、もう魔王(ラスボス)が目の前にあらわれやがった!?

「ほんっと、お遊びは程々に気をつけてくださいね!」

「はい、はい……ほんとすみませんでした」

(結局俺が怒られるのかよ。すっげぇ理不尽な事この上ねぇよなぁ~)


 目の前にいる少女から怒られてしまっていた。俺に出来る事といえば、平に、平に頭を下げ、目の前にいる少女とナポリタンに謝罪することしかできなかった。


「さてさて、ワタシもお遊びはこの辺にして……」

(結局クソメイドてめえも遊んでんじゃねぇかよ!!)

「うん? 何かご不満でもありますかね?」

「いえいえ、滅相もございませんです。はいー」


 さすがにこれ以上話を引っ張るのは物語進行上好ましくないので、目の前の少女の話を聞くことにした。


「で、アナタはどうするのですか? ワタシの提案を受け入れるのですか? ってか、いい加減早く決めやがれよ!」

「あー……」


 すっかり忘れていたのだが、そういえば彼女からの提案を受け入れるのかどうかで、話が止まっていることに今更ながら気付いてしまった。


(さて、どうすっかなぁ……あとこのクソメイド口悪すぎんだろうが。ほんとにメインヒロインなのかよコイツ?)

『彼女の提案を受け入れますか?』


『はい』物語が進みます

『いいえ』バッドエンドになり、4話目にして連載が打ち切りになります


(……いやいや、打ち切りされたんじゃ俺の存在意義が消失しちまうだろ? 最初っから選択肢が一つしかねぇじゃねぇかよ……)


 俺は目の前に広がる設問と選択を見ながら、そんなことを思っていると、


「はい、じゃあ『いいえ』ですね。それならば、このモーニングスターを使いアナタの命ごとを絶つほか……」

「いやいやいやいや、アンタどっからそんな物騒なもん取り出したんだよ!?」


 ドゴーッン!! 見れば彼女の右手には鎖付きの鉄球である、いわゆる『モーニングスター』が装備されていたのだ。何気に鉄球の重さにより、白菜の収穫後のような大きな穴が地面に開いている。


「へっ? ああ、コレですか? ……ほい♪」


 少女はまるで『手のひらマジック』でも披露するかのように、左の手のひらを俺へと差し向け、軽く握り素早く開いた。すると……ドゴーッン!! 今度は左手からモーニングスターが生え、今度はキャベツの収穫後の如く地面に穴が開いてしまう。


「……いやいや、どんな仕組みでそれ出しやがったんだよ!? ってか、地面は大丈夫なのかよ!?」


 俺は目の前で繰り広げられたマジックショーに舌を巻きつつも、モーニングスターによって通りに敷き詰められ、今は粉々に破壊されたレンガの心配をしてしまう。


「仕組みですか? こう……うにゃ♪ って感じで念じれば出てきますよ(笑)」

「マジックじゃなくて、念力の類なのかよ……」


 少女はなんとも情けないくらい可愛い声を発すると、何故だかモーニングスターが出てくるらしい。


「まぁ後は、ワタシの正体が『魔王』のせいかもしれませんねぇ~」

「そっかぁ~、魔王なら仕方ないよねぇ~」


 どうやら少女の正体は魔王のよう……うん??? ホワイ? 今この子、なんて言った? ……魔王だと? 魔王ってさ、魔族の王様ってポジションだよね?


「…………って、アンタが魔王なのかよ!?!?」


 俺はワンテンポ遅れてその事実に対し、戦後最大級に驚いてしまった。それもそのはずである、なんせ俺たち冒険者がダンジョンに向かうのは、その魔王を討伐するためなのだから……。

 

「あ、はい。そうですよ~。あ~でも今は後任に地位を譲ってしまったので、魔王なんですがね。HAHAHAHA……」

「…………」


 何がおかしいのか、少女はまるで外国人のような発音で笑っていた。ってか、表記まで英語になっていやがるしな。


「え~っ、と? つまりキミは元ラスボス……ってことなんですかね?」


 権力と武力に滅法弱いこの俺は、とりあえず丁寧語で再度確認することにした。


「そうですそうです。あの……何か可笑しいですかね???」


 目の前の少女は、何食わぬ顔で首を傾げるだけだった。


「あ~~~っ、そうですよね!!」

「(ほっ。どうやら俺が疑問に思ってることに気づいてくれたらしいな)」


 どうやら少女も異変に気づいたらしい。


「今の魔王様はですね……どろどろどろどろ、ででーん♪ ななな、なんとボスで有名なドラゴンなんですよ♪ いやぁ~、やっぱりボスと言えばドラゴンですよね~。アナタも一見冒険者っぽいですし、やはりドラゴンを倒すのとか憧れちゃいますかね?」


 少女はこれまたアニメ化した際の制作費削減コストカット目的なのか、自らドラムロールを口ずさんでいた。対して俺はややズレたことを言われてしまい、内心戸惑いながらどうにか言葉を発した。


「いや、まぁ確かにドラゴン倒すとか正直、俺だって背景モブとはいえ一応は冒険者だから心躍るけどさぁ……」

「どうやらアナタもご希望のようですし、さっそくここに呼んじゃいますかね♪」

「はっ? こ、ここに呼ぶって何を……って、あっおい!」


 またもや俺の返事を聞かず、少女はスカートから笛を取り出すと吹き出した。


 ピ~ヒョロロ~、ヒョロピー♪ なんとも音程を外した間抜けな音が当たり一帯に鳴り響いてしまう。


(いやいや、こんな間抜けな音でドラゴンなんか、ましてや『魔王』なんか来るわけねぇだろうが。この子、頭が相当ヤバイぞ……)


 実際問題、魔王軍に家族をやられ失った人は正気を失い可笑しな行動をすると聞いたことがあった。まさか、こんな可愛い子がその被害者だったなんて……。 


(きっとこの子も戦争の被害者なんだよね。だから自分のことを元魔王だとか、思い込んで生きてるんだな……ぐすっ)


 俺は今なお間抜けな笛を吹き、頭が残念な少女を哀れみの目で見ることしかできなかった。そんな少女のことを思ってしまうと、視界が歪み涙を流してしまいそうになっていた。


 バサバサッ、バサバサッ。だがそのとき、遥か上空から何故だか羽音が聞こえてきていた。そこでふと、空を見上げてみるとそこには、何か鳥のようなモノが飛んでいたのだ。


 最初それを見たとき、「おっ。ありゃ~でっけぇ鳥だなぁ♪」などと、暢気に太陽の光が眩しくないよう右手を開き額に当て眺めていたのだが、どうやらアレは鳥の類ではないようだ。だって鳥にしては、あまりにも体がデカすぎたのだ。こんなに離れた位置から見える姿だけでも、そこいらの家よりも全然大きい姿をしていたのだ。


 そして文字描写終わりのタイミングを見計らっていたのか、旋回を終えたソイツが俺の目の前に降り立った。

 ドッ、スーン!! ガシャ! ソイツが降り立った真下には運悪くも野外用の屋台があり、その巨体で軽々と押し潰し下敷きにしてしまった。


「わぁ~おっ♪」


 もしかしたら、俺はこの物語で初めておちゃらけた・・・・・・のかもしれない。むしろコイツを目の前にして、冷静でいられる方が頭おかしいだろう。


 そう、ここまで前フリをすれば既にその正体をお気付きの読者さんもいらっしゃるだろう。ソイツの正体とは……今話題沸騰中のドラゴン先生だった。しかもラスボス仕様スペックのやつね。



 4話目にして早くもラスボスと元魔王を目の前にして、第5話へとつづく

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