「アイスクリーム2」
「今年も来たんかいね」と皺くちゃの顔をこちらに向けるのは彼の母だ。例年通りに2、3の言葉をやり取りして目的地へ歩を進める。びっくりするほど変わらない田舎道を進み、林を抜けて、山を登る。コンクリートに慣れた足が悲鳴を上げるが、今日ばかりは頑張ってもらう他にない。ヒールを履いてきたのは流石に申し訳ないなと自らの足に謝罪の一つでも入れておく。
正直に言えば毎年欠かさず墓参りに来る理由はもう無かった。ここ数年は惰性だ。父はとっくに亡くなったし、母はなんとか説得して近場の施設に入ってもらった。祖父母の墓は別の田舎にあるから、生まれ育ったこの集落を訪れる理由は本当に彼の墓参り以外に無かった。そういう意味では惰性というよりも呪いに近かった。山頂付近のお寺の、その横に併設された墓地に彼の帰る場所がある。
一年分の汚れを落として、花を差し替えて、少しのお供え物を置く。手を合わせて黙祷すれば例年の儀式なら完了だが、今日はケジメを付けに来たのだ。そうもいくまい。「私、もうここには来れない」と言葉にするまでには線香が半分は無くなるほどの時間がかかった。続く言葉はすんなり出てきた。「ついこの前ね、子供が産まれたの。しかも双子よ。今日だって結構無理して来たんだから。でも、もう来れない。お母さん、だからね。」と。
お寺から少し降りたところの少し開けた所にあるベンチに腰掛ける。お供え物を入れていたビニール袋には高級志向のアイスクリームが2本入っていた。一本目の袋を開けてゆっくり食べる。この季節だから溶けることはない。このアイスクリームと一緒に恋心にも満たないこの気持ちを消化しきってしまおうと道中で買ってきたのだった。前に食べたときよりは少し塩辛い気がした。蝉の声はもうとっくに聞こえない、冬の寒い日だった。
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