そんな、ユメを見た

Amaryllis

そんな、ユメを見た

「あれ? 珍しいね、猫ちゃん?」

「……」


 彼のスマホに、猫のストラップが揺れている。モノクロのケースに、招き猫のストラップ。センスはどこに置いてきたんだろう。サイズもとても微妙である。


「……今度、買いに行こっか」


 コクリと頷いた彼は、付き合い始めて早二年。未だに謎に満ちた人である。



 〇 〇 〇



 右に猫。左に猫。これで両手に花。

 前に猫。後に猫。なんと囲まれている。天国。


 ――という、夢を見た。


 もう一回見たいなぁと思い再び布団を頭から被る。光は遮断されたけれど、それだけだ。


 ……ん? 光?

 カーテンが開いている。


『12月24日、ストラップ買う』


 ――どうやら、彼が家の中にまで迎えに来てくれたらしかった。お礼にプリンをおごろう、そうしよう。


「そういえば、急に猫好きになるとか、どうしたの?」

「……別に」


 まぁそういう事もあるか、とプリンを頬張る。食べ終わったカップとスプーンを差し出すと、当然のように片付けてくれた。


「ありがと」

「……ん」


 その日はお揃いの猫のストラップを買った。白と黒の、色違い。

 白猫は赤いリボン、黒猫は青いリボン。我ながら良い人選ならぬ、良い猫選だと思う。


 じゃあね、と手を振る。駅まで送ってくれた背中が見えなくなるまで、ずっと。

 彼も結構な頻度で振り返る。その度に目が合ってニッコリ笑うと、彼は毎度のようにフイッとそっぽを向いてしまう。そんな所が良いなぁ、なんて思うあたり、きっとお互いに重症だ。


 恋の病。今の2人にはとても心地良い、不治の病。


 明日もまた会えるから、寂しくは、なかったはずだ。



〇 〇 〇



 モフモフ天国。猫ちゃん撫でまわしの楽園。

 チケットがどうだとかアレコレ音がしたけれど、ひとまず放っておく。


 モフモフ。モフモフ。

 猫ちゃんは逃げない。つまり幸せ。


 ――何か、足りないなぁ……。


 この場所に独り、というのは、きっといつか、飽きてしまう。

 パァンと、目が覚めた。


「……」


 はて、どんな夢だったか。……なんだか少し、寂しかったような……。


 ピンポーンと、陽気なチャイムが聞こえた。

 よし、折角のクリスマスだし、思いっきり甘えてやろう。名案だ。



〇 〇 〇



「っていう事がねー、あったんだよー」

「……」


 無言。困惑の気配。

 まぁ、いつもの事だ。


「そういえば、まだ付けてるんだね、そのストラップ」


 きっと片方が壊れるまで互いに外さない、白と黒の猫のストラップ。


「……猫、好きだろ」

「うん? うーん、まぁ、好きかな」

「……猫ばかり見てるから」

「……うん?」


 今この人、とてつもなく可愛い事を言わなかったか。

 つまり。


「目立つ猫を身に着けておけば、見てくれるかも、と?」

「……」


 買い物デートでも行けたから万々歳、と隣でホワホワ笑っているこの人は、紛う事無き天然だ。


「……決めた。25日にしよう」

「……? 何を?」

「式、挙げる日」

「……!?」


 そういえば、どさくさに紛れてまだ返事をしていなかった気がする。という事は、サプライズのお返しが出来たという事だろうか。


「……何で25? 24は?」

「それは秘密」

「……」

「ちょっとくらい、分からない方が楽しいでしょ?」


 少し悩んでコクリと頷いた彼は、付き合い始めて早幾年。未だに謎に満ちた人である。


「あーでも、25日じゃ近すぎるかなぁ」

「……死力を尽くす」

「あっははは! そういう問題じゃないって!」

「来年でもいい」


 本当に、優しい人だ。


「……24日は?」

「早くしちゃダメでしょ」

「……!」


 そしてちょっとだけしつこかったりする天然さんである。



 あれから毎年、互いの持ち物にひとつずつ、猫に関する物が増えていく。

 24日はダメなのだ。2人で一緒に、猫を見に、出掛けるから。


 彼は猫みたいな人である。

 青いリボンの、黒猫みたいな――。

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