第8話 掃除

 私たちがお弁当を食べ終わったのは、昼休みも終わりに近づいた頃だった。

(つい食レポに夢中になってしまった……)

 結局私は、公式ヨイネを一つももらえずタイムアップ。

 仕方がないので、私はメガネを外して巾着袋に入れて携帯し、トイレに行くことにした。午後の授業に備えて。

 そして教室に戻り、再びメガネを掛けた私は驚く。


 ――視聴者1627


(なに、これ?)

 お弁当を食べている時のは一桁だったのに。

(ま、まさか、トイレでエロい映像が流れちゃったとか?)

 でも私はちゃんと巾着袋に入れた。光や音をシャットアウトする素材の袋に。

 それに、もしエロい映像が原因だったとしても、トイレから戻ってきた今も千人を超える人が視聴しているというのはありえない。

(もしかして壊れた? トイレに行ってる間に?)

 私はメガネを掛けたまま頭を振ってみる。

 でも何も変化は起こらない。


 するとその様子を見た諸沢和諸(もろさわ かずお)がやってきた。こいつとは小、中、高が一緒の腐れ縁だ。

「なにやってんだよ? 美鈴。そんなことしたら、映像を見ている人が目を回しちゃうぜ」

「なんか壊れちゃったみたいなの。どうしよう?」

「マジか? ちょっと待って」

 すると和諸はスマホを出して操作を始める。

「今は昼休みなんだから、スマホを使って自分で調べればいいんだよ。『緑葉高校、一年七組、ライブ』でググれば出てくるぜ。って、なんだよ、ちゃんと写ってるじゃん」

 そう言って和諸はスマホの画面を見せてくれた。

 そこには、私の目線からの映像が問題なく配信されている。


 ――視聴者1628


 右目の表示を確認すると、ちゃんと一人増えていた。視聴者表示も故障ではなさそうだ。

(なら、この数字はどういうこと?)

 疑問が晴れない私を横目に、和諸が言う。

「ていうか、もう掃除の時間だぜ?」

 うちの高校は、昼休みと五時間目の間に掃除をする変わった学校なのだ。

「ほらほら、委員長代理がちゃんと掃除をしないと、ヨクナイネが付いちまうぞ」

 それは嫌だ。

 でも、この千人を超える人って掃除の風景を見てるのかな?

 私は頭にハテナマークを浮かべながら掃除を開始した。


 今日の掃除の私の割り当ては教室。

 みんなで机を後ろに寄せて、ゴミを掃いて、最後にモップで床を水拭きする。

 するとモップをかける私の横に、同じくモップを持つ転子がスルスルと近づいてきた。

(んん? ドジっ子が何する気?)

 転子は背が小さくて可愛い子だ。

 すぐに漫画のようなドジをやらかすので、クラスのアイドル的な存在になっている。

 私の横に並んだ転子は、何を思ったのかモップをかけたままダッシュ。

「そんなことしたら、モップがつっかかって……」

 注意する前に悲劇は起きた。

 転子はまさにモップにつっかかって、すっこけたのだ。


 前方にダイビングするように。

 短いスカートを派手にめくらせて。


 当然、中身が露わになる。大きなロゴがプリントされた三角の白い布に包まれた可愛いお尻。

 その瞬間だった。私の脳が雪崩のような音に占拠されたのは。


 ――ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン……


(これかよ、視聴者の目的は……)

 無印ヨイネはたちまち千を超えた。

(あんた、これ毎日やってるでしょ!)

 そうでなければ、事前にこんなに視聴者が増えるわけがない。

 五月雨のようなピコーンに頭に来た私は転子に忠告する。

「ねえ、もっと自分を大事にした方がいいよ」

 この娘、クレクレゾンビの頭領みたいなやつだと思いながら。

 すると転子はあっけらかんと答えるのだった。

「だってパンツじゃないから恥ずかしくないももん」

 と同時にピコピコと音が。


 ――ヨイネ(ロシキー)


 それはお尻のロゴの水着ブランドからの公式ヨイネだった。

 ていうか、そのセリフ言っちゃっていいの? 著作権、大丈夫?

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