第6話 四時間目(英語)

 四時間目は英語だった。

 英語の先生は普通の先生だった。

 普通の日本人で、教科書に沿った授業を普通に行い、バリバリの日本語風発音で説明する。

 この発音でディ◯ニーの唄を歌うものなら、著作権的にものすごいことになるのは目に見えるくらい、普通の日本人の英語だった。

 だから先生は何も冒険はしない。

 淡々とカリキュラムに沿った指導を続けるだけ。

 もちろん、ヨイネも付かないし、ヨクナイネも付かない。

(まあ、もし自分が先生になってヨイネシステムの前に晒されたら、こんな授業を目指すと思うけどね)

 平凡であることは簡単そうだが意外と難しい。

 私の中で、英語の先生の株がちょっと上がった瞬間だった。

 いつも爆睡しててごめんね。


 すると私は、不覚にも消しゴムを落としてしまう。

 コロコロコロと前の席まで転がっていく消しゴム。だって使い古して丸くなっていたんだもん。

 幸い、前の席に座る未希が気づいて拾ってくれた。

 彼女は消しゴムを手にして、私を振り返る。

「美作さん、これ使ってみなよ。すっごく良く消えるよ」

 とても魅力的な女子高生の笑顔で。

 私の消しゴムじゃなく、新品の消しゴムを手にして。

「これ使ったら、もうやめられないから」

(なに、ウインクしてんのよ!)

(ていうか、バリバリのカメラ目線じゃない!)

(だからメーカー名がよく見えるように消しゴム持たなくてもいいから!)

 未希はずっと待っていたのだ。私のところから消しゴムが転がってくるのを。新品の消しゴムを用意して。

 それはまるで蜘蛛か蟻地獄のごとく。いや、まさにクレクレゾンビだ。

 即座にピコピコとヨイネが飛んでくる。


 ――ヨイネ(ヨコク文具)


(チクショー、こんな手があったか!?)

 きっとのこの広告料は未希に支払われるに違いない。

 やられたという悔しさと羨ましさで、クラスを救うという薄っぺらい決意がくじけそうになった。

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