ボーナストラック
Act.1 宇宙人の女の子は地球を楽しみたい! その1
「……昨夜未明、
テレビには、昨夜撮影されたらしい彗星の映像が流されていた。
綺麗な星空を背景に、尾を引く一筋の彗星の姿が捉えられている。
今朝からずっと、地元
今もコメンテーターたちは画面の中で、『
曰く、これから起きる大災害の前触れなんじゃないかとか。
いやいや、それはむしろ逆で、古代の文献を紐解けば、古来より天岐原では彗星は吉兆として扱われてきたんだとか。
はたまた「異星人のUFOだったんじゃないか」なんていう、明後日の方向に行くトンデモな説まで飛び出てきた。
今回の彗星を町おこしに利用しようなんていう動きも一部で出ているらしい。
ここまで話題になるのなら、見とけばよかったなあと後悔する。
実はこの彗星、昨日の時点でネットでも話題になっていたのだが、僕は『ラプラスの庭』の攻略で疲れていたのでそのまま寝てしまったのだ。
ちなみに樫宮先輩にメールしたところ、
「彗星か? 無論、見ていたぞ。ああ、見事な彗星だった。私が思うに、あの彗星は私の闇の力に引き寄せられてしまったのだろう。力を持ちすぎるというのも、罪なことだな……」
とメッセージが返ってきた。
うん、何というか……樫宮先輩らしい残念っぷりだ。
普段は完璧なお嬢様なのに、なんで僕の前だといつもこうなんだろう?
「また負けかよ、やっぱ強えーなナギは。10秒のハンデじゃ足りないかあ、ちくしょー」
そう言って、
「今度は、15秒だからな! 見てろよ、今度こそ一本取ってやる」
「あはは、流石に15秒はきついかなー」
僕は笑顔で返したが、当然負けるつもりはない。
すぐさま次の対戦が始まり、僕はハンデのためにコントローラーを床に置いた。
僕たちがやっているのは、「ぴよぴよ」というレトロなパズルゲームだ。
そしてその対戦相手であり、隣にいる桜は、僕の数少ない同世代の友人で、ゲーム仲間でもある。
お互いゲーム好きということで、僕たちはすぐに意気投合した。
彼は学校では一匹狼みたいな存在だった。誰とも群れたりせず、一人平気な顔をして、草むらに寝転がり空を見上げているような少年だった。
まあいろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず、彼は僕の数少ない友人で、ゲームは好きだがそれほど上手くはない、少し大人びているが中身はどこにでもいる普通の青年ということは確かだ。
ぴよぴよ勝負も佳境に入り、狙い通り僕が序盤の劣勢を覆し逆転勝利を決めたところで、「ピンポーン」と僕の部屋のインターホンが鳴った。
「珍しいなー、お前んちに客が来るなんて。……もしかして、彼女か?」
「……いませんよ、そんなの」
軽口を叩かれつつ、僕は桜を残して玄関口に出る。
一体誰だろうか。認めたくはないけれど、確かに桜の言う通り、僕は交友関係は広くない。だからこそ、ある程度の予想はつく。
でも、樫宮先輩と紫音さんは、来る前にいつも連絡を入れてくれるはずなんだけど。スマートフォンを確認したが、それらしき形跡は見当たらなかった。
ネットショッピングはしてないし、出前も頼んでいない。集金の可能性もなさそうだ。……ということは、同じアパートの住人だろうか。
「はいはい、今出まーす」
そう言って、僕はドアノブに手を掛ける。
ガチャ。扉を開けると、そこには。
――ピンク色の髪をした、美少女が立っていた。
「えーっと、どちら様ですか……?」
僕は恐る恐る訊ねる。
ピンク髪なんて、アニメ化ゲームでしか見たことがない。
というか、現実的に有り得るのだろうか?
いや、目の前にいるのだから、有り得るんだろうけど……。
目の前の彼女は白のTシャツを着ていて、胸元には「I ♡ げーむず」と大きくプリントされている。
きっと、相当なゲーム好きなのだろう。
綺麗な目をした、可愛らしい女の子だった。
しかし、ゲーム好きの知り合いか。一応、一人だけ心当たりがあるんだけれど……その人は、本来ここにいないはずの人間なのだ。
……まさか、昨夜の彗星騒ぎって。
「私よ、あなたの永遠のライバル、クレア・ライトロード!」
まさかとは思ったけれど、どうやら悪い予感は的中したようだ。
昨日の彗星も、クレアが宇宙船を飛ばして地球までやって来たというわけだ。
……そのおかげで、うちの町で町おこしが始まっちゃったんですけど。
「あー……とりあえず、中に入って下さい」
僕は、ひとまずクレアを中に促す。
しかし、中には間が悪いことに、桜がいる。
そして桜は、ちょっとした特技というか、不思議な力を持っているのだ。
「おー美人じゃん。……って、ん? なにかおかしいな、この感覚……まさか、お前人間じゃないのか?」
「えっと、言っちゃっていいの?」
「……たぶん、大丈夫だと思います」
桜の特技。それは、
彼は霊感ってヤツが生まれつき強かったのだそうだ。
幽霊が視えるというだけでなく、人に憑りついた悪霊を取り除いたり、人に化けた物の怪の類を看破することもできるらしい。
先祖が高名な呪術師だか陰陽師だかで、遺伝なのだそうだ。
ゲームが好きなのも、単純に楽しいからというだけでなく、「余計なものを見ずに済むから」という理由も大きいらしい。
事情を話すと、桜はあっさり納得してくれた。
「そっかー、宇宙人かあ。地球外生命体は、流石に管轄外なんだよなー。……面倒になる前に、逃げるか」
そう言って、桜は急いで身支度を整える。
「それじゃあ、俺はこの辺で帰るから。……えーっと、クレアでいいんだっけ、君のことは誰にも話さないから、俺の事も内緒にしてくれよな」
そう言って、クレアに向かってウィンクする。
最後に「ナギ、面倒なことに巻き込まれてるみたいだなー、お前も」と言い残し、彼はそそくさと帰って行ってしまった。
そして、僕たちは二人きりになった。
「それにしても、ナギってカシミール以外にも友達がいたのね。……ナイクラの廃人っぷりからして、てっきり
「さすがに、友達の一人ぐらいいますよ……」
クレアが桜を見て、何故か意外そうにしていたのが気になっていたのだが……そういう理由だったのか。
流石の僕でも友達が一人もいないというのは侮り過ぎというものだ。
……実際、彼はなけなしの一人ではあるのだけれど、それは黙っておこう。
それより、クレアが地球に来た理由だ。
「それで、クレアさんは何しに地球に来たんですか?」
「んー、観光?」
……観光? クレアがさらりと口にした言葉に、僕は拍子抜けする。
そんな簡単な理由で、宇宙人が地球を訪れていいものなのだろうか?
「それじゃ、さっそく今から外に出かけましょう?」
クレアに引っ張られ、僕は地球を案内することになったのだった。
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