3.<フリークス>は『不滅の塔』を目指す
第1話 騎士と王冠の四王会談
見上げる空は、まるで血が流れたかのように
不気味に森がざわめく中、クレア・ライトロードは一人目的地を目指していた。
そこは、<
『ナイツ&クラウン』の中でも高レベルのモンスターが生息する魔の森だ。
その場所で彼女は一人の人物と待ち合わせをしていた。
どうやらその人物は先に到着して、彼女のことを待っていたようだ。
黒の全身鎧に身を固め、その背中には大剣を背負っている。
『
彼はこちらを見つけると、手を振ってくれた。
「クレアさーん、こっちでーす!」
「お待たせー、待った?」
「いえ、僕もちょうど今来たところです」
「ふーん。でも、あなたの方からメッセージを貰えるなんてね。私が出したときは全然返事をくれなかったのに……」
「あはは、その節は本当にすみません」
ナギはわざわざスパムボックスからクレアのメッセージを引っ張り出し、クレアと連絡を取ったのである。
おそらく、『ナイツ&クラウン』のメッセージ機能がクレアと連絡できる唯一の手段だろう。
ナギがクレアと連絡する手段を考えて、何とか思いついた方法だった。
「それで、あなたたち、私のいない間にとんでもない発見をしたんですって?」
クレアはナギに向かって、なじるような口調で言う。
クレアも一応、経緯だけはナギからのメッセージで把握していた。
半分は本心、半分は意地悪混じりだった。
「すみません、クレアさんがいないうちに進めちゃって……」
ナギはクレアの言葉に、申し訳なさそうに謝る。
「別にいいわよ。でも、くれぐれも無茶はしないでね?」
「そ、そうですね。なんとか頑張ってみます」
それでもたぶん無茶しちゃうんだろうなあとナギは内心自嘲した。
先輩はきっとそうするだろうし、そうなったときは僕も先輩につられて相当な無茶をやってしまうのだろう。
「あれ? そういえば、カシミールはいないの?」
クレアは周囲を見渡すが、そこには『
てっきりナギは彼女と一緒にいると思っていたのだが、どうやらここには彼一人で待っていたようだった。
「はい。機密性を考えて、今回は樫宮先輩のプレイヤー拠点で話をすることになったんです。先輩は先に拠点で待ってます」
そう言ってナギは樫宮先輩の待つ、<カシミール暁の古城>へとクレアを案内するのだった。
◇
目の前にそびえ立つのは、中世ヨーロッパ風の見事な古城だった。
『ナイツ&クラウン』では、プレイヤーが土地を購入できる機能がある。
一応、購入可能な土地は制限されているのだが、購入した土地はプレイヤー拠点として設定することができ、所有者の好きなように開発ができるようになる。
拠点をどこに選ぶのかは自由なのだが、樫宮先輩はなんと高レベルのモンスターが蠢く<
高レベル帯の土地は値段も高かっただろうに、雰囲気がマッチしているからと言って即決だったという。
「クレアさんは<
「使えるけど、どうかしたの?」
クレアは不思議そうな顔をして答える。
確かに、唐突だったかもしれない。しかし、<カシミール暁の古城>を進むためには<
「樫宮先輩の拠点はトラップダンジョンになっているんです。これから通るのは安全な『回避ルート』なんですけど、他のプレイヤーに漏れないように<
「ト、トラップダンジョン……?」
クレアは案の定唖然としている。
そう、これから進む<カシミール暁の古城>には、先輩の意地悪さが存分に出た罠が満載なのだ。
トッププレイヤーであっても攻略は困難を極める、樫宮先輩お手製のダンジョンである。
ナギは回避ルートを知っている(教えられている)ので出入りができるが、何も知らないプレイヤーなら即リスポーン送りだろう。
ここならば情報が洩れることはない。そう考えての選択だった。
「気をつけてくださいね。そこら中、先輩が作った罠だらけですから」
ナギはクレアの手を引いて、城の中を進む。
薄暗い城の中は、死角が山ほどある。注意しすぎるということはない。
「ここって、安全ルートなのよね? さっきから矢が三本ほど飛んできてるけど、本当に大丈夫なのかしら……?」
「……あの矢には絶対に当たらないで下さいね。呪いが掛かってますから」
絶妙に答えになっていない。たぶん、確信犯だろう。
それからも、なんとか二人は罠の数々を潜り抜け、ようやく樫宮先輩(カシミールⅡ世)が待つ晩餐室へと到着したのだった。
「フハハハハハ! 待ちわびておったぞ、我が盟友よ! そしてクレア・ライトロード、お前もだ!」
樫宮先輩(カシミールⅡ世)は杯を片手に歓迎してくれた。
「さあ、そこに座るがいい! 晩餐の夜を始めようではないか!」
二人は促されるままに椅子に座る。おずおずと。
これでこの場には、3人の王冠持ちが揃ったことになる。
しかし、この場で圧倒的に発言力があったのは、そのうちの一人だけだった。
……やはり、樫宮先輩(カシミールⅡ世)は威圧感がある。
身の丈190cmの恰幅のある長身に、狂気に歪んだ年老いた顔は、例え中身が先輩だと分かっていても恐ろしいものだ。
「どうした二人とも、手が止まっておるぞ? 我が料理に何か御不満かな?」
「……それじゃあ、頂きます」
「そ、そうね、頂こうかしら!」
二人はおどおどしながら、料理を口に運ぶ。
ぴきーん。敏捷が上昇した。ぴきーん。防御が上昇した。
……全くもってアイテムの無駄遣いである。
これらはあくまで雰囲気づくりの代物であり、『ナイツ&クラウン』では味覚は実装されていないので、口元に運んだ瞬間に料理は消失する。
そのため、特に意味なくバフをされるだけという結果だけが残るのだった。
「やはりそうそうたる顔ぶれですね。僕も混ぜてくれませんか?」
突然、背後から見知らぬ声が聞こえてきた。
まさか。ここにいるのは3人だけのはずだ。他の人間などいるはずがない。
僕は思わず後ろを振り返った。そこには中華風の装束を着た、小柄な少年が立っていた。
……その頭には矢が刺さって、背中には手斧が突き刺さっている。
「……ポーション要ります?」
「……大丈夫です、足りてますので」
無残な姿の割には、ピンピンしているらしい。
いや、本当に大丈夫なのだろうか。どう見てもやせ我慢にしか見えないのは、たぶん気のせいではないと思う。
「このような者を招いた覚えはないのだが……貴様、名を名乗ってもらおうか」
樫宮先輩(カシミールⅡ世)が空気を読んで訊ねる。
自慢のトラップが破られたというのに、かなり冷静だ。
「そうですね……『群龍戦団』のフェイ、と名乗らせていただきましょうか」
目の前の小柄な青年が言った。
アバターも小柄だが、やはり声もどこか子供っぽく聞こえた。
しかし……『群龍戦団』のフェイか。その名前は、僕も聞いたことがあった。
確か彼は、『
突如として『ナイツ&クラウン』に現れた、期待の新星プレイヤーたちである。
きっかけとなったのは、一年前の大型アップデートの一環で行われた、新規職業の実装だった。
先行組の恩恵が凄まじいのもあって、既存のトッププレイヤーの大半は自分たちが使い慣れた(そして極めた)職業に留まっていたのに対し、この新世代組はほぼ全員が新規実装された職業につき、そして『ナイツ&クラウン』のトッププレイヤーとして駆け上がっていった。
『群龍戦団』のフェイもその一人である。確か、職業は『龍帝』だったはずだ。
ちなみに、僕の狂戦士やクレアの聖女などは、最古参の職業の一つだ。
古い職業だからといって、インフレに置いていかれるということはなく、ありがたいことに運営もアップデートを続けてくれている。
「それで、その『群龍戦団』のフェイとやらが一体何の用かね?」
樫宮先輩(カシミールⅡ世)が威厳を持った声で訊ねる。
しかし、フェイも物怖じしない。
「情報交換をしようと思いましてね。……行っているんでしょう? 『ラプラスの庭』に」
――『群龍戦団』のフェイは、不敵に笑った。
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