聖水の勇者の伝説

ぜろ

俺の転生歴は覚えている限り四回に渡る。

 俺の転生歴は覚えている限り四回に渡る。

 最初はイケイケの勇者候補だった。が、魔王に辿り着く前に雑魚モンスターに腹を刺されて死んだ。防御は大事だと胴当てを付けて行ったら、首を切られて死んだ。もっと防御を、と兜もつけて行ったら足ががら空きで急所を突かれて死んだ(文字通りの急所だ)。そして今、俺は下半身も鍛え抜き、鎧の巨人と呼ばれる冒険者としてこの世界に再び転生している。

 だがその鎧の巨人にも弱点はあるのだ。

「すまん、先行っててくれ」

「あれ、どーしたの鎧の。なんか変な気配察知?」

「いや、違う。個人的なことだ」

 うにゃーん? と首を傾げて来るのは、チームのメンバー紅一点の白魔導士、セシリアだった。俺の場合は大概鎧の、と呼ばれるので大した問題はないだろう。

 個人的なこと。

 トイレに行けないのだ、この鎧は。

 だから一旦下半身の鎧をすべて外さなくてはならないのだが、そうしなくても良い方法もある。俺は荷物の中から風船状の物を出し、それをちんこの先に被せた。それから放尿する。あー……鎧って水分出るから大変なんだよなー……。この簡易トイレが発明された時代に転生して来て、本当に良かったと思う。いやマジで。

 放尿が終わってからの賢者タイムにちょっと浸っていると、仲間たちの方から何やら声が響いた。行ったぞ、そっちだ。言われて俺は簡易トイレを外すが、モンスターが出て来たのはその一瞬後で。鼠型の雑魚モンスターだが足が速いことでやっかいなそいつは、無防備な俺にキシャアッと爪を立てて襲い掛かって来た。うわっと思って思わず振るったのは剣ではなく尿の入った袋で――

「鎧の、大丈夫!?」

 そしてその更に一瞬後に顔を出したのはセシリアで。


 俺は二人に聖水プレイをすることになってしまった。


 いや、自分でも思うよ、ないわーって。でももっとなかったのは、二人の反応だった。モンスターはじゅくじゅく溶けて行くし、セシリアは顔が一肌向けてつるんと卵肌になってるし。俺は慌てて捨てた簡易トイレを放ってセシリアの方に向かうが、独特の匂いはなく、むしろ気持ち良いぐらい爽やかだった。なんで? え? と思っていると、セシリアはくすくす笑い出した、なーんだ、と呟く。

「聖水なんか持ってたなら言ってよー、てっきりトイレか何かの所を襲われてんじゃないかと思っちゃったじゃない」

 はいトイレでしたけれど。

 しかし聖水?

 俺の尿が?

 どうやら俺は転生を繰り返し過ぎて、尿すらも聖水レベルの勇者になってしまったらしかった。セシリアがほかの仲間に言いに行こうとするのを必死で止めて、手の汗が偶になる、と嘘をついてもらう事にした。手の汗ってのレベルの放水じゃなかったけどなあ、と訝るセシリアをどーにか説き伏せて、そして偶にだから期待しないで欲しいことをきつくきつく言いつけて、俺達は仲間達の元に戻った。


 その後俺は聖水を溜めに溜めて魔王に投げつけ、伝説の勇者になった。

 穴があったら入りたい、そう言う伝説だった。

 聖水プレイで魔王を倒した勇者なんて、俺ぐらいだろう。

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聖水の勇者の伝説 ぜろ @illness24

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