第28話 ガーディアン(二)

「で、どうやってガーディアンを探す?」


 私達は頭を抱えた。


「私は、ラウディアンの根源的な成り立ちについてよく知らないんだけど......十三人のレインボーを作り出したのは、何故?」


 まずは、そこから考えねばならない。それ以上でもそれ以下でもなく、何らかの根拠があるはずだ。


高次元ハイアラーキー-マスターを模したというなら、何らかの示唆がそこにあるわけよね......」


 Dr. クレイン=イーサンは、しばらく考えていたが、ひとつのホログラフィーを映し出した。


「ラウディスの神話的な発想だが......、マスター∞《インフィニティ》の下には四人のアセンテッド-マスターがおり、四大元素を司ると言われている......。そして、その下には六人の使徒がおり、それぞれが六つの色のエネルギー-レイを司ると言われている。」


六芒星ヘキサグラム)と十字《クロスね。でも、そうするとガーディアンも聖者もひとりずつ足りないわ」


 私は、神聖幾何学の図形を思い描いた。


「六つの光線レイを重ねると、クリアになる。中心センターにその象徴がおり、六つのカラーのエネルギーの集約、クリアホワイトの存在がいる。基底はディープ-マゼンタだ。」


「ミーナだわ......」


 イーサンは黙って頷いた。


「そして、四大元素.....地、火、風、水を象徴するガーディアンがおり、中心に『世界ザ-ワールド』を象徴するガーディアンがいる。」


「四大元素によって世界が構成されている......てことね」


「そして、マスターΩ《オメガ》は、その『世界』の根源的存在、究極エターナルだ。」


 ここまでは、私の母星、フェリー星の教義とあまり変わりはない。


「で、イーサン。あなたの流れはどの元素を象徴するガーディアンなの?」


「『水』だ。人間―Human ― の基礎物質ベースは『水』だからね 」


 イーサンは、少しはにかんだように笑った。―だから、医者なんだよ......と。


「いるとすれば......」


 イーサンは、ホログラフィーのラウディスの古文書を捲りながら、頭を巡らせ、ある頁に目を止めた。


「『風』のガーディアンは『真理』を、『地』のガーディアンは『力』......これは『存在』と言い換えてもいいな、生命力のことだ。『火』のガーディアンは、『気力』...『情熱パッション』を司る」


「『水』なあなたは、『精神』『感情メンタリティを司るわけね」


「そういうことだ。病は『気』からだからね。人間―Human ― の健康には、特に『火』と『水』のバランスが大事だ」


「話が逸れてるわよ、ドクター」


 私とイーサンは、顔を見合わせて苦笑いをした。イーサンの長い指が次の頁を捲る。


「 可能性としては、『風』のガーディアンは、なんらかの研究機関にいそうだな。『地』のガーディアンは.....大地と関わるところ、農業施設か?」


「サマナにあるの?」


「西に植物園がある。研究用だがね」


ふぅ~ん、と私は頷いた。


「『火』のガーディアンは?」


「おそらくは、『軍』.....だな。」


「そうね......」


 構成は、わかった。が、まだひとつわからないことがある。


「ラウディスのマザーコンピューターが、六芒星ヘキサグラム十字クロスを模して作られているのは解ったわ。でも、六芒星ヘキサグラム、ミーナの位置からマスターΩ《オメガ》に至る縦のエネルギーライン......一番、大事なセンターの中心にいるガーディアンは?......世界ザ-ワールドの司るエネルギーは何なの?」


イーサンは、一瞬、口ごもり、そして改めて発声した。


「『ラブ』......だ。」


ラブ』......それこそが、この星に一番、必要なもの。この星が失ってしまったもの。.......ビジョンで見たその存在は、眼を瞑り、身を縮こまらせていた。彼(彼女)こそこの星を甦らせるもの、『負』を『正』に、『哀しみ』を『怒り』を『喜び』に変えるもの。マスターΩ《オメガ》を目覚めさせるもの......。


「そのガーディアンは、どこにいるの?」


勢いづいて言う私に、イーサンは哀しそうに言った。  


「いない......」


「え?」


「いないんだよ、アーシー。.....『ラブ』のガーディアンは、もうひとりのマスターΩ《オメガ》なんだ。双子だったんだよ。......だから子どもを作ることはできなかった。」


 『ラブ』のガーディアンは「マスターΩ《オメガ》の低次体マインド」として扱われ、奉り上げられていた。マスターΩ《オメガ》の恩寵を人々に与える『巫女』のような役割を果たしていたという。


―それは、つまり......―


 私はミーナに与えられた虐待を思い出した。......あれは『模倣』だったのだ。マスターΩ《オメガ》が『降臨』してからずっと行われてきた、忌むべき慣習だったのだ。


「彼女を...『ラブ』のガーディアンを見つけ出して、彼女を目覚めさせるの。......でなければ、マスターΩ《オメガ》は目覚めない!」


 私は思わず立ち上がっていた。イーサンが眉をひそめる。


「どうやって?......彼女(彼)の末裔はいないんだぞ?」


「ミーナよ。ミーナが知ってるわ!」


 私はフェリーナの教義を思い出した。

三位一体トリニティ』......。マスターΩ《オメガ》と『ラブ』のガーディアンとミーナは一体なのだ。

 地と天と人―Human ― が愛和して 、調和する時に、真の平和が訪れる。


 ただ、それには......『最後の審判』を受けねばならない。神に『七つの大罪』を暴かれて、裁かれるのだ。

 そう、七人の聖者=犠牲者は、『七つの大罪』を暴かせないための封印だった。マスターΩ《オメガ》の力を完全に機能させない、そのための装置だったのだ。


―人間―Human ― は欲望の動物なんだ......―


 イーサンの言葉の苦さを改めて噛みしめた。

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