新人サンタは厄介な子供と対峙するようです

Lalapai

初めての仕事


今日は子どもたちが待ちに待ち焦がれた日。クリスマスだ。皆んな良い子に寝んねしてサンタを待ちわびる。

ワシはサンタ。仕事を定年退職しサンタ学校に通い早3年。遂にサンタ認定試験に満を持して合格し今年から実際に聖なる夜の街に出て子供たちにプレゼントを届ける事になった。


「ここが田中くんの家じゃな?」


サンタとしての初めての仕事場はここ田中くんの一件だけだ。その田中くんの家に入ろうと玄関の前に事前に渡されたランタンに書類を見えるように挟み、玄関の規定された場所へ吊す。


「あれじゃのー、サンタさんって言うのはもっと夢のあるものだと思ってたわい」


いくらサンタとは言え今の世の中では住宅への侵入は定められた手順を踏む必要があるのだ。


「まずは、ノックを3回じゃな…」


カンカンカンッ


アルミ製の硬いドアをノックするが音沙汰がない。よくイメージしてた西洋などの木製ではない事に現代の趣のなさに幻滅する。


ガチャン


ドアのカギが開く音がした。おそらく鈍いノックに気付いてくれたのだろう。


「サンタでーす。お邪魔しまーす」


ドアを開け家に入るとその家の二十歳近くの長女が出迎えてくれた。


「あの子は上で良い子にして待っています」


サンタとしてワシは今回仕事をする田中家の事を時前にしっかりと調べてきた。どうやら親を早くに亡くし姉と弟の2人で協力しながら生活しているらしい。


「君はプレゼントはいいのかい?」


「私はいいんです。あの子さえ喜んでもらえれば」


この子にもプレゼントを渡したいのは山々だったが生憎仕事の対象外であるため当然プレゼントを用意しているわけでもなく、ただただ家庭事情を調べたにも関わらずプレゼントを用意しなかったワシを悔やんだ。


「すまんのぉ。ちゃんと多郎くんにはプレゼントを持ってきたからの」


「ありがとうございます!あの子は上で寝ています」


ワシはせめてこの子の弟、田中 多郎たなか たろうくんにはいい思いをして欲しいものじゃ。

そう思いながらプレゼントを入れた袋を強く握りしめ多郎くんの眠る部屋へと階段を上がる。


「ここが多郎くんの部屋じゃな?それにしても“たろう”って言ったら普通“太郎”じゃと思ったが“多郎”なんじゃな。それにしても絵に描いたような名前じゃな」


ワシは恐る恐る多郎くんの眠る部屋のドアを開ける。


「いい子にしてるかのぉ。。。ん?」


部屋の入るとあってはならない状況がそこにはあった。


「何入ってきてるんですか。サンタみたいな格好して」


そこには少しキレ気味でベッドの上に座る多郎くんがいた。

サンタという存在が子供に発見される。これは夢を壊す行為であり、あってはならない事だ。その最悪な状況になり、ワシは戸惑う。

しかしながら、サンタ界にはこの状況を対処するマニュアルが存在する。それはサンタであり続ける事。


「サンタみたいな格好って、どこからどう見てもサンタじゃろ」


そしてサンタとして子供と話し続ける事。子供は眠気に弱い。ずっと話をしていればそのうち眠ってくれる。


「そんな事よりここに入ってくる前、苗字珍しいって思ったでしょ」


「いや、名前の漢字が珍しいんじゃよ!それ以外は珍しくないよ、、、なんならその苗字を珍しいと思う人が珍しいよ」


なんじゃこの子は。しかし、ワシも引いてはならん。サンタらしく…


「そうじゃそうじゃ、多郎くんは普段どんな事をして遊ぶのかな?」


「河原でゴミを釣り上げてはキャッチアンドリリースしてます」


「それはキャッチアンドリリースしなくていいんじゃないかな?」


「後はおじいちゃんの肩の叩き」


「それはいい事だね。ところで肩の叩きってカツオのたたきみたいに言わんじゃろ。てか、遊びではないのぉ」


「そんな事は良くてですよ、サタンさん?」


「サタンじゃなくてサンタじゃ。サタンだと死を運んじゃうからな。ほんでなんじゃ?」


「プレゼントですよ、サンタマリア号さん」


「もうサンタって一回言っちゃってるじゃろ。サンタマリア号だと人を運んじゃってるじゃない」


「いいから早くプレゼントお願いしますよ〜、シャトーブリアンさん」


「だからサンタだって。シャトーブリアンに関してはもう何も運んでないよ。。。で、何が欲しいんじゃ?」


「僕はバッグ・クロージャーが欲しいんです」


「バッグ・クロージャー?なんじゃ?それは」


「簡単に言うと食パンを止めるやつです。笑いながら言うとばっふぅっふろーひゃあーです」


「なんで笑いながら言ったんじゃ。それにしてもなんでそんなものを欲しがるんじゃ?」


「実は、お母さんの…」


「形見、、、なのじゃな?」


「いいえ、お母さんの叔母のそのまた叔母の友達の奥さんの家紋がそのバッグ・クロージャーなんです」


「限りなく無縁の人じゃない。しかも家紋があの食パン止めるやつって、そんな日本人いるのか?、、、んー生憎そのバッグ・クロージャーと言うものは持っておらんのじゃ」


「ならいいです」


「おん?いいのか??今から急いで買って来ることもできるが…」


「いいえ、僕よりもプレゼントが欲しくても貰えない人はたくさんいるんです。だから、そんな人たちにプレゼントを届けてください。サザンオールスターズさん」


「最後まで名前を間違えるのじゃな。。。それにしても多郎くんはお姉さんと似て優しい子じゃな」


「お姉さん?」


「ん?いたじゃろ?お姉さんが」


「僕はお母さんとの二人暮らしですが…」


「ちょっと待ってくれ。ここは確かに田中 多郎くんの家のはず…」


「確かに僕は太郎ですがここは田中じゃなくて亜流後離図夢あるごりずむですよ。田中 多郎は僕の隣の家です」


慌てながら震える手で名簿を見てみたが確かに田中 多郎くんの家はこの今いる家の隣だった。


「そ、そんな〜…」


「ま、そんな日もあるでしょ」


「君に何が分かるんじゃ…」


「確かにまだ幼い僕には分かりませんが子供を喜ばせようとするあなたの姿勢、サンタニズムは素晴らしいものですよ」


「サンタニズムと言うかは分からんが…確かにくよくよしてられんの。ありがとう、大事なことに気付かされたわい」


「では早く田中の家に行きましょう!」


「おー!」


ワシは袋を高らかに担ぎ上げる。


「ありがとのぉ。太郎くん」


「いえいえ、礼には及びますよ」


「及ぶんじゃな」


「では、また来年間違って入って来る日までの」


「バイバイまた来年。SAN値ピンチさん」


「ワシの名はサンタクロースじゃあい!」


この年以来、数々の家でプレゼントを入れた大きな白い袋をバッグ・クロージャーで止めたサンタクロースが現れるようになった。

このサンタクロースと会うことができた子供達は“サンタクロース“と言う名前を朝までノートに書き取らせたと言う伝説が未だに続いていると言う。



〜〜Merry Christmas!!〜〜

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