第27話 森の守護獣
「あれ? 何でユウト君が見張りしてるの?」
朝七時、目を覚ましたミサキが問いかけてきた。
俺は振り返って答える。
「いや、ヨシアキが時間になっても起きなかったから」
「あぁ……」
ぐっすり眠る彼の姿を思い出し、納得したように頷くミサキ。
「みんなは?」
「入谷さん以外はもう起きてるよ」
「そうか、じゃあ見張りも終了だな。お疲れ、ホノカ」
俺とホノカは立ち上がり、ランタンを持って艦橋へと戻る。
カナミ、レナ、アカリの三人はすでに支度を終え、いつでも出発できる状態だった。
「ねえ、この人はいつまで寝ているつもりなのかしら?」
レナが寝袋に入ったヨシアキを足で転がしながら言う。
「ヨシアキは朝が弱いからな。そう簡単には起きん」
アカリはこの状況にすっかり慣れている様子だ。
きっと寝坊常習犯なのだろう。
その時、ミサキが深呼吸をしてから大声をあげた。
「入谷さん! 桜守さんが怒ってますよ!」
「ん? えっ、うわぁあぁ!」
ヨシアキが慌てて起き上がる。
キョロキョロと周りを見回し、ホッと息を吐く。
「何だ、驚かさないでくれよぉ……」
「入谷さんが起きないからいけないんですよ?」
ミサキは呆れた表情を浮かべ、腕を組む。
さすがはミサキ、先輩の扱い方を完璧に心得ている。
「ってか俺さ、見張り番やってないよな……?」
しばらくして、ヨシアキがやってしまったことに気付く。
「そうですよっ! だからユウトさんは三時間しか寝られなかったんですっ」
ホノカが怒りをぶつける。
ヨシアキは寝癖でボサボサになっている頭を掻きながら謝る。
「悪かったな、ユウト。この借りは必ず返すから、許してくれ」
「ああ、俺は気にしてないからいいよ」
俺は両手を水平に動かし微笑みかけたが、隣のホノカはまだ怒りが収まらない様子だ。
「ダメですっ。ヨシアキさんにはちゃんと借りを返させないとっ!」
「いや、本当に俺は別に……」
「ユウトさんは優しすぎるんですっ」
ホノカに詰め寄られた俺は、ヨシアキの顔を見遣る。
ヨシアキも反省しているみたいだし、あまり厳しいことを言いたくないのだが。
困っていると、見兼ねたミサキが助けてくれた。
「入谷さんにはログアウトした後に死ぬほど働いてもらいますから。ホノカちゃん、今日の寝坊くらい許してあげて」
「……まあ、ミサキさんがそう言うなら、仕方ないですねっ」
ホノカの怒りが静まる。
俺はミサキに視線を送り、「ありがとう」と心の中で囁きかける。するとミサキは、まるでその囁きがテレパシーで伝わったかのようにこくりと頷いた。
「えぇっ? そんなぁ、広尾ちゃん困るよぉ〜。それならいっそ、このまま仮想世界に引きこもってやるからな」
一方その頃、ヨシアキは理不尽なペナルティに対し無駄な抗議をしていた。
「諦めろ、ヨシアキ。せめて罪が軽くなるよう善行を重ねることだ」
アカリがヨシアキの肩に手を置く。
ヨシアキは大きなため息を吐き、がくっと項垂れた。
俺たちは今日もまた荒野を歩き続ける。
まもなく正午というところで、艦橋から見えていた森の入り口に辿り着いた。
「いよいよここまで来られたな」
「って言っても、目指す先はあの山の向こうだけどねぇ」
俺の言葉に、カナミが余計なことを付け足す。
荒野を踏破したことに達成感を感じていたのに、どうしてこの先の道のりを想像させるんだ。
「この森の中に湖が見えてたけど、どれくらい進んだ場所なんだろう?」
ふとミサキが呟く。
確かに、艦橋からでは森の入り口から湖までの距離がいまいち掴めなかった。
夕方までには着くだろうと考えていたが、少し楽観的すぎたか。
「でも、とりあえず進むしかないんじゃないかしら?」
レナが言う。
俺は首を縦に振って気合いを入れ直す。
「ああ。ここで迷っていてもしょうがないし、とにかく今は前進あるのみだな」
「よっしゃ、どんどん行こうぜ」
ヨシアキが元気に声をあげる。
俺たちは意気揚々と森の中へ足を踏み入れた。
森の中は木漏れ日が差し込み、とても快適な気候だ。
遮るものが何もなく直射日光に晒され続けていた荒野とはえらい違いである。
「風が気持ちいいですねっ」
「そうだな。暑さもそれほど不快ではない」
ホノカとアカリはすっかり避暑地気分だ。
その様子を微笑ましく眺めていると、目の前に巨大な影が見えた。
「何だ? って、うわっ!」
突如現れたのは、木の高さほどある大きなクマだった。
「いやいや、デカすぎでしょ!?」
「おいおい、勘弁してくれよぉ」
カナミとヨシアキはそのサイズ感に少し引いている。
俺は折りたたみ傘を手に取り、柄を伸ばす。
「一気に片を付けるぞ」
俺の掛け声に、全員が頷く。
ミサキとカナミ、レナの三人は遠距離からクマを狙う。
「火炎魔法!」
ミサキがスマホを前に突き出す。するとスマホの画面に魔法陣が出現し、炎が放たれた。
続けて、カナミがエッググレネード、レナが
「俺らも負けてられねぇな。行くぜ、ホノカ、アカリ」
「はいっ」
「ああ」
ヨシアキはホノカ、アカリと共にクマの足元に近づき、何かをザクザクと突き刺す。
「ヨシアキ、その武器は何だ?」
問いかけると、彼は得意げにその武器を掲げる。
「これだよこれ! 一番身近な刃物っつったらこれだろ?」
ただの包丁ではないか。
そんな攻撃で巨大クマのHPが削れるのか疑問だが、無いよりはマシか。
「今から剣戟スキルを使う。援護頼むぜ」
「「了解!」」
全員の返事を聞いて、俺は傘を前に構えた。
「刺突剣技、クイックスタッブ!」
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