第24話 出発
西暦二〇二五年七月二十八日、午前十時。
俺はミサキ、カナミ、レナと一緒に葛西臨海公園にいた。
「この橋を渡れば、しばらく東京とはお別れだな」
「ログインして半年だけど、この街好きだったからちょっと寂しいな」
「この先、こういう街みたいなのってあるのかなぁ?」
「ファルケム族の村があるくらいだし、きっと大きな街もあるわよ」
橋のたもとで振り返り、街並みを眺める。
するとそこへ、三十代ほどの男性が若い女性二人を引き連れてやってきた。
「あっ、
ミサキが男性に向かって手を振る。
それを見て、男性も笑顔で手を振り返した。
もしかして、この入谷という男性もエンジニアなのだろうか?
様子を見てみる。
「広尾ちゃん、大変なことになっちゃったねぇ」
「はい、最初は結構パニクりました」
「いやぁ、このシステムのどこにセキュリティホールがあったんだか……」
「私も全然検討がつかなくて……」
「まあとにかく、ワールドリゲインタワー? を目指すしかねぇよな」
「そうですね。ここは協力していきましょう」
やはりエンジニア仲間らしい。
入谷さんは身長が百六十七センチほどで、白いTシャツの上に七分袖の薄手の茶色いサマーニット、黒色のスキニーという格好をしている。髪は逆立った茶髪、顎には少しヒゲが生えていて、いかにも若手研究者といった感じだ。
ミサキの言葉遣いからして、入谷さんの方が先輩なのだろう。
ミサキは入谷さんに対し、俺たちのことを紹介する。
「この人が弘前ユウト君。で、こっちがユウト君の妹のカナミちゃん。そっちの女の子が吉野レナちゃんです」
「どうも」
頭を下げると、入谷さんが手を差し出してきた。
「君が広尾ちゃんの彼氏かぁ。なかなかカッコイイじゃんよ。よろしく頼むぜ」
「ああ、よろしくお願いします」
握手を交わす。
続いて、入谷さんサイドが自己紹介を行う。
「俺は広尾ちゃんと同じエンジニアの入谷ヨシアキ。こっちの世界じゃ大学生として暮らしてる。で、こいつらは同じゼミの
「よ、よろしくお願いしますっ!」
「よろしく」
俺は「よろしくな」と返しつつ、二人を見つめる。
霧島ホノカ。身長百五十六センチほどで、顔は少し幼め。白い膝丈ワンピースに、パステルピンクのカーディガンを肩に掛けている。ツインテールの髪に麦わら帽子を被ったその姿は子供のようで、言われなければ大学生とは思わなかった気がする。
その隣の夙川アカリは身長百六十センチほどで、キリッとした顔つきをしている。ロング丈の黒いワンピースに白色のリネンパーカ、頭には深緑色のキャップ。髪型は黒髪ロングで、前髪はぱつんと切り揃えられている。とても真面目そうな印象だ。
「それじゃあユウト君、そろそろ行こっか」
「ああ、そうだな」
ミサキの言葉に、こくりと頷く。
七人の大所帯となった俺たちは、橋を渡り東京に別れを告げた。
荒野を歩き続けること一時間。
俺たちはヨシアキ、ホノカ、アカリの三人とすっかり打ち解けていた。
「折りたたみ傘で世界を取り戻そうってか。やってのけたら英雄だぜ?」
「いや、別に折りたたみ傘にこだわりはないんだけど……」
ヨシアキに肩を小突かれ、小声で呟く。
武器が無い状況の中、ミサキが剣として使えるようにしてくれたから使っているだけであって、折りたたみ傘で最後まで戦い抜こうなんてつもりは微塵もない。もちろんミサキとの思い出の品でもあるので捨てるつもりも決して無いが。
ちらりと横を見ると、ミサキとカナミがホノカと談笑していた。
「ユウト君が折りたたみ傘でドラゴンに立ち向かおうとするから、私も必死で」
「ミサキさん、ホントにお兄ちゃんのこと好きなんですね」
「でもっ、普通の折りたたみ傘を剣にするなんてすごいです。ヨシアキさんと違って、ミサキさんは優秀なんですねっ」
「おいヨシアキ、ホノカにディスられてるぞ」
俺が言うと、ヨシアキはレナとアカリの方を見ながら返す。
「あぁ、よくある話だから気にしねぇよ。それよりあいつら、お前のことかなり酷く言ってるぜ?」
「え、嘘だろ?」
俺は慌ててレナとアカリの会話に耳を立てる。
すると、レナが俺の悪口を楽しそうに話しているのが聞こえてきた。
「ユウトは彼女の前でいいところを見せたいだけ。実際は冴えない陰キャよ」
「そうか」
「だから、くれぐれもあんな男を好きになっちゃダメ。アカリなら大丈夫かもしれないけれど」
「承知した。頭に入れておく」
おいおい。レナもレナだがアカリはアカリで何なんだ。
ロボットみたいに淡々と返事をしやがって。
思わず口を挟む。
「あのなぁレナ、アカリに適当なことを吹き込まないでくれよ。それにアカリも、レナの言うことを素直に信じないでくれ」
その直後、レナはこちらを睨みつけ反論してきた。
「適当なことって? 私は事実を並べているまでよ。一体どこが適当だったって言うのかしら?」
「だから、俺は別にミサキにいいところを見せたくてやってるわけじゃないんだって。それに、そもそも何でお前は悪口を楽しそうに話すんだ?」
「そんなの、楽しいからに決まっているじゃない」
当たり前のように答えるレナ。
「では、ユウトの言い分を踏まえ、冴えない陰キャという部分だけを記憶しておこう」
追い打ちをかけるようにアカリがロボット的発言をする。
そこも取り消しだよ! と言い返す気力もなく、俺は大きなため息を吐いた。
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