第17話 再会
休憩を挟みつつ、モンスターを倒しながら歩き続けること四時間。
ついに橋が見えてきた。
「やっと着いた……」
安堵のため息を漏らすと、カナミがニヤニヤした表情で言う。
「えー、もう疲れちゃったの? こっから家に帰らなきゃいけないんだよ?」
「んなこと分かってるよ」
別に疲れていたからホッとしたのではない。無事にここまで辿り着けたことにホッとしているのだ。
それに、もうすぐレナが戻ってくるかもしれない。東京へ入るには絶対にここを渡るはずなので、待っていれば合流できるのではという考えも頭の片隅にあった。
「レナりん、今はどの辺にいるんだろう?」
ミサキも俺と同じことを考えていたようで、遠くの方を眺めながらぽつりと呟く。
「そういえば、昨日からその人のこと言ってましたよね。千葉に遊びに行ってるクラスメイトがいるって」
カナミが問いかけると、ミサキは笑顔で答える。
「うん。
「ミサキさんとレナさんは仲が良いんですね。どんな人なんですか?」
レナのことが相当気になるのか、グイグイと質問する妹。
ミサキは少し困惑した表情を浮かべているが、ちゃんと答えてあげるところが優しい。
「レナりんはクールというか冷静というか、落ち着いた子だよ。でも、負けず嫌いなところもあって、勝負事になると闘争心に火がつくの」
「私、レナさんに会ってみたいです!」
カナミがなぜそんなにレナに会いたいのかは謎だが、その勢いで接触するのは非常にまずい。人の輪に入ることに積極的ではないレナは、グイグイ系の妹をどう思うだろうか? きっと軽蔑するに違いない。
とりあえず忠告しておこう。
「カナミ、一ついいか? レナはうるさい人が嫌いなんだ。お前みたいにギャーギャー騒ぐ人を見るといつもバカにしてる。だから、もしレナと会った時はテンションを抑えろよ? お猿さん扱いされるかもしれないからな」
にやりと笑いかけると、カナミは眉を顰め歯をむき出しにして怒った。
「はぁ? 私のどこがお猿さんなの!?」
「そのうるさい声だよ」
「それレナさんじゃなくてお兄ちゃんが思ってることでしょ?」
最後の一言は確かに俺が日頃思っていることだが、レナがこういう人が苦手なのは事実だろう。
「はいはい悪かったよ」
俺は両手を挙げ、降参のポーズを取る。
その時、後頭部に何かが突きつけられた。
「誰が可愛い女の子をお猿さん呼ばわりするって?」
この声は……。
「レナりん! 戻って来られたんだね!」
「あなたがレナさんなんですね! 初めまして、私弘前カナミって言います!」
嬉しそうにはしゃぐミサキとカナミ。
俺の後ろから、それに対する返事が返ってくる。
「ミサキ、また会えて良かった。それで、あなたはユウトの妹さんね。初めまして」
やはりレナだ。
ということは、頭に突きつけられているものはきっと。
「そのまま手を挙げていなさい。動いたら撃つわよ」
エアガン。
サバイバルゲームのために持ち歩いていたであろうその武器が、自分の頭を貫こうとしている。
「あ、あの……?」
前を向いたまま、レナに話しかけてみる。
「何? 早く撃てって?」
「いや、そうじゃなくて。お前、いつから聞いてたんだ?」
恐る恐る質問を投げかけると、レナは冷静な声色のまま答える。
「そうね。あなたが妹さんにおかしな忠告をしてる時かしら」
「いやそれは、カナミとレナが良い関係を築けるようにと思ってだな……」
もごもごと言い訳をしていると、カチッという音とともに頭に突きつけられている感覚が無くなった。
後ろを振り返ると、すぐそばに呆れた顔をしたレナが立っていた。彼女は右手のハンドガンを腰のホルスターに戻してから口を開く。
「まったく、あなたは私を何だと思っているのよ? 少なくとも年下の女の子に毒舌を吐くなんてことはしないわ」
「そうだよユウト君。レナりんはそこまで意地悪じゃないよ」
ミサキもレナの味方をしているようだが、それはそれでフォローになっていないのでは?
レナは一瞬ミサキに視線を向けてから、再び俺を睨みつける。
「とにかく、誤解を招くような紹介はしないで。次やったら本当に撃つわよ」
「はい。すみませんでした……」
頭を下げると、レナは大きくため息をついた。
俺とミサキ、カナミのパーティーはレナを加えて四人となった。
レナは身長百六十一センチと女性の平均身長より少し高めで、すらりとした体型をしている。髪型は丸みを帯びたボブで、長めの前髪の間に覗くつり目からは凛々しさが感じられる。そのスタイルの良さと大人っぽい顔つきにクールな性格も相まって、クラスの中では《氷の姫》なんて呼ばれることもある。
橋を渡り自宅へと帰る道中、カナミはレナのハンドガンを興味深そうに眺めながら呟く。
「その銃カッコいいなぁ……」
それを聞いたレナは、優しい表情をして言う。
「これは電動ハンドガンの《グロック18c》。でも、これはあくまでサブウェポンよ。メインウェポンはストレージに入れてあるから、家に着いたら見せてあげるわね」
「あっ、はい!」
ニコニコとしている妹を見て、レナもどこか嬉しそうな顔を浮かべる。
銃に関心を示す女子が周りにはいないので、ここまで食いついてくれたことにテンションが上がっているのだろう。きっと心の中では、サバゲー沼に引きずり込もうと企んでいるに違いない。
そんなレナを見て、俺とミサキも思わず笑みをこぼした。
家に着いた俺たちはまず夕飯を済ませた。
そして、レナの身に起きた出来事について話を聞くことになった。
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