第14話 石の門
西暦二〇二五年七月二十七日、朝八時。天気は快晴。
俺は腰に折りたたみ傘をぶら下げ、ミサキとカナミと一緒に家を出た。
「お兄ちゃん、矢印の方に行くのはいいけど、行ってどうするの?」
首を傾げるカナミに、俺は少考してから答える。
「東京を囲んでる堀? に架かる橋を渡って、外の世界がどうなってるか確かめる。それくらいが今日の限界だろう」
それに対し、ミサキも同意の言葉を述べる。
「そうだね。いきなり遠くに行き過ぎるのは危険だし、まずはしっかり確認しないと」
最終目的地は世界の果てに建つというワールドリゲインタワーだ。しかし、外の世界がどうなっていて、どんなモンスターがいるのかなど不明な点は多い。
そのため、今日はあくまで外の世界を確かめるだけにして、明日東京を離れることにした。
「よし、行くか」
俺の掛け声に、ミサキとカナミはこくりと頷いた。
まずは荒川に沿って南へと歩く。
昨日案山子狩りをすると言って帰ったルイルイも、ここを自転車で走ったのだろうか? 途中、葛西橋と清砂大橋の橋上を見たが、そこに案山子モンスターの姿は無かった。バタフライナイフを構えるルイルイを思い出し、改めて謎の多い人だったなと考える。
「ねえユウト君?」
「ん、どうした?」
ミサキに話しかけられ、そちらに顔を向ける。
「そういえば、メニューウインドウにパーティーって項目あったでしょ? これからは戦闘も増えると思うし、パーティーを組んでおいた方がいいんじゃないかな?」
「確かに、パーティーメンバーになれば色々と便利かもしれないな」
俺は首肯し、右手の人差し指で四角形を描いた。
メニューウインドウからパーティーボタンを押すと、【パーティーを組む】【パーティーを探す】という二つのボタンが表示された。
「じゃあ、俺からパーティー申請するでいいか?」
問いかけると、二人は「うん」「いいよ」と頷いた。
【パーティーを組む】を選択し、リストからミサキとカナミに申請を送る。
するとすぐに【申請が承認されました】との文字が表示された。
「あっ、右上になんか出た!」
直後、妹がびっくりした様子で声をあげる。
右上を視線を移すと、自分のHPバーとMPバーの下に、【広尾ミサキ LV3】【弘前カナミ LV1】と書かれたHPバーが増えていた。
「お兄ちゃん、すでにレベル5なんだ」
呟くカナミに、ミサキが口を開く。
「昨日はユウト君、モンスター沢山倒したもんね?」
「でも、まだまだレベルを上げないと。街中にだってあれだけのモンスターがいるんだし、外にはもっと強いのがいるはずだ」
俺の言葉に、妹は嘘でしょといった顔をする。
「モンスター、そんなに強いの? お兄ちゃん、私レベル1なんだけど……」
「平気だよ。強そうなのが出たら、俺とミサキで守ってやるから」
微笑みかけると、カナミは「ホントに……?」と上目遣いで聞いてきた。
俺は腕組みをして返す。
「まあ、弱いやつは自分で倒すことだな。じゃないとレベルが上がらないぞ?」
「やっぱりお兄ちゃん守ってくれないんじゃん! いいよ、自分の身は自分で守るから」
ムッとした表情をしてそっぽを向くカナミ。
「ごめんって。強いやつはちゃんと俺が倒すから」
「ミサキさんから貰ったエッググレネードがあるから平気だもん」
何度も謝るが、一向に取り合ってくれない。
これは相当拗ねている。妹のことなので時間が経てば元に戻るだろうが、困ったものだ。
俺とミサキは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
湾岸道路と首都高速湾岸線の下を潜り、いよいよ東京湾まで辿り着いた。
海の向こうを眺めると、そこにはあるはずのない陸地が見える。
「ここまで地形が変わっているのか……」
その光景に、俺は思わず言葉を失う。
マップの表示やレナの話で何となくは分かっていたつもりだったが、実際にそれを目の当たりにすると結構な衝撃だった。
「あそこにあるの、橋じゃない?」
カナミが葛西臨海公園の方を指差す。
俺とミサキがそちらに視線を向けると、向こうの陸地へと架かる橋が見えた。
「本当だ。ユウト君、行ってみようよ」
「そうだな」
ミサキの言葉に、俺は気を取り直して首を縦に振った。
葛西臨海公園に入り、橋に向かって進む。
「あの橋、めっちゃ長そうだけど何キロあるんだろ?」
カナミが橋を見ながら呟く。
それなりに長さはありそうだが、ぱっと見では東京ゲートブリッジより少し長いくらいに思える。
「んー、三キロくらいか?」
「お兄ちゃん、適当なこと言わないでよ。もし三キロ以上あったら許さないんだからね?」
そんな会話をしていると、ミサキが何かを見つけたようだ。
「あれ何だろう? 橋の手前にあるやつ」
「確かに、何かありますね。行ってみよ、お兄ちゃん!」
「おい待てって。もっと警戒心を……」
聞く耳を持たず走り出すカナミ。俺とミサキは慌てて追いかける。
「ちょっ、お前足速すぎ……」
橋のたもとで立ち止まると、そこには不思議な石の門があった。
「オブジェ、かな……?」
カナミは石の門をまじまじと見つめながら首を傾げる。
「にしては、ちょっと変じゃないか?」
「うん。きっと何か使い道があるんだと思うけど……」
俺とミサキは石の門がただのオブジェではないと感じたが、どう使う物なのかまではよく分からなかった。
「それより、まずは橋を渡らないか? この石の門の謎は歩きながらでも考えられるし」
俺の言葉に、ミサキとカナミが頷く。
俺たちは、いよいよ外の世界へと踏み出すことになった。
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