第17話 聖地へ
報道部の天草が小さい体を更に縮こませる。
どうやらネットに動画を上げた犯人はコイツで間違いないみたいだ。
「ネットに動画上げたのあなたですね? 天草さん」
との巧の問に小さく頷く天草。
「あんたねぇ、あの動画のせいでどれだけ大騒ぎになったかわかってる⁉」
と、責め立てたらサッと巧の後ろに隠れやがった。
「まぁ朝倉さん、落ち着いてよ。確かにえらい騒動になっちゃったけどさ、結果的には良かったんだし」
「そうですよ。お陰でイベントに出られるようになったんですから」
と、男どもが可愛らしい女の子を庇ったりするのがまた腹立つ。
「あんたらが良くてもアタシが困るのっ! だいたい、報道部のスクープ狙いの為に動画アップするってのが気に入らないじゃない?」
「匿名でアップしてるから、報道部関係ないと思いますよ?」
と、巧。
「そ、そうです、スクープ狙ってやろうとかじゃないです、ホントです」
巧の後ろから天草が慌てて否定する。
「じゃあ、何でアップしたのよ?」
「……嬉しかったからです……」
恥ずかしそうにそう言う天草に皆、?って感じになった。
「……沖田さんが一人でギアを作ってるのは以前から知ってました。認識としては変な人だなぁ、って感じだったんですけどね。度々嫌がらせ受けてたのも知ってましたし。どうせまともに出来っこないのに、なんで諦めないんだろう?とかネガティブなイメージしか無かったんですけど。それがあのバトル見て、認識が変わりまして。最初ヤラレっぱなしだったけど、一応バトルになってるというか、ちゃんと動けてるのに感動して、慌てて撮影を始めた訳です。その後、須藤君に変わってからはもう無我夢中で興奮して、最後ホントに勝っちゃった時はめちゃめちゃ胸がすく思いだったんです。だから、その感動を広めたくって……、彼等は凄いんだぞって世間に知らしめたくて、動画をアップしたんです。その結果、迷惑掛けちゃってごめんなさい」
そこまで一気喋って、深く頭をさげる天草。
「そっかあ。そんな迷惑でもないから大丈夫だよ。見ててくれてありがとう」
そう言ってニッコリ笑う直虎。笑顔は気持ち悪いけど、
「あの動画がいいきっかけになりましたからね。むしろチャンスを貰った感じです」
巧にそう言われて天草が赤くなる。なんか直虎の時と反応違うな?
「報道に携わる人間として一方に肩入れしたら駄目なんですが、G同好会さんは全力で応援させて貰いたいと思います。プロモーションムービーの件もお任せ下さい」
と、何故か巧をチラチラ見ながらそう言う天草。ホントにわかりやすいな、こいつ。
「あと、出来れば時々取材もさせてもらっていいですか?」
「取材? なんか大袈裟だなぁ。僕は別にいいけど、巧くんはどう?」
「そうですね、メカに関しての撮影を控えて貰えるならいいと思います」
と、巧がずいぶん慎重な意見を言う。
イベントを見据えて手の内を隠したいって事だろうけど、そもそもハンドメイドと一世代前の作業用ギアをどこまで改造するつもりなんだろ?
そういえば、
なんかすごく巧の本気具合を感じる。
秋のイベントはもしかしたらとんでもない事になるかも知れない。
◇
翌日、アタシは少し早めにガレージに向かった。
昨日は結局、
で、あの後思い出したのは
ギアはギリシャ文字に沿って作られてるって直虎が言ってたけど、
でも前に直虎は、テロリストと戦ったのは
どうやらこの都市伝説は二種類あって、ガンマがテロリストと戦ったって説と、イプシロンがテロリストと戦ったって説があるみたい。
どちらにしても眉唾もんだとしか思えないんだけどな。
ガレージに着いたら珍しく直虎が椅子に座って呑気にお茶してた。
こいつってば、いつも何かしらの作業をしてるって印象しかないもんねぇ。 巧の姿は見えなかった。
「ちわ。巧はまた休み?」
「うん、今日は何か作業があるから休むって」
「そーなんすね。いやー残念。何の作業してんですかね? うぐっ⁉ お、重いですって!潰れるぅ」
アタシが座ったソファーからそんな声が聞こえてきた。
「あれ? アンタいたの? ちっちゃいからわかんなかった」
そう、ソファーには既に天草が座っていて、アタシはその天草の上に座ったのだ。
「ウソつけっ!! アンタ絶対いるのわかっててわざと座ったでしょ⁉」
きゃあきゃあと喚く天草。まあ、当然わざとだけどね。
「なんでアンタがここにいるわけ?」
「昨日話したでしょ? 取材です、取材、ポリポリ」
「煎餅食べてお茶飲むのが取材? つか煎餅齧りながら喋るなっ」
自分で持ち込んだのか、天草はポリポリと煎餅を食べてた。こいつ、食べ方まで小動物っぽい。ハムスターとかあの辺の感じ。
「いーじゃないすか。今日は肝心の須藤くんも来ないみたいだし」
とか言ってるけど、取材とか理由つけて巧に会いに来るのが目的じゃないだろうな?
「プロモの方はどーなってるのよ?」
「ばっちりですよ? おおかたの編集終わりまして、後はカッコいいCGとか入れようと思って、それはCG科の人に作ってもらってる所です」
へぇ、結構本格的にやってるみたいだ。
「ふうん。で、直虎は何のんびりしてんのよ? 早くギア仕上げないといけないんじゃないの?」
と、アタシらのやり取りをニコニコと気持ち悪い笑顔で眺めてた直虎に聞く。
「いやそれがさぁ、巧くんに今日の作業は控え目にして、って言われてるんだよね」
「ん? なんで?」
「多分、コイツの仕様をクラッシュ向けに大幅に変えるつもりじゃないかな? 前、そういう風な事言ってたでしょ?」
と、天草を気にして言葉を選びながら直虎が言う。
やっぱり巧が言った『
天草がのほほんと煎餅齧りながら、耳だけはこちらに集中してる気配を感じる。細かい情報も聞き逃さないってつもりなんだろう。やっぱりコイツ、油断できないな。
「ふーん。話は変わるけどさ、ギアの都市伝説あったじゃん?」
天草がいるから敢えて他愛のない雑談風に話を振る。
「……
直虎も天草を警戒しながら答えてる感じ。こちらの意図は伝わったみたい。
「テロリストを制圧したとかいうギアの話ですね? これ、いろんなパターンがあるんですよねえ」
やっぱり食いついてきた天草が言う。
「そーなの? アタシか聞いたのは2パターンだけだったけど」
「それ、テロリストを制圧したのはイプシロンだってパターンと、ガンマだってパターンじゃないすか?」
「そうだけど他にもあるの?」
「あと、イプシロンとガンマが戦ったってパターンもあります」
「ああ、それは僕も聞いたことあるな。幻の機体同士が戦うって意味わかんないなって思ったけど。それでもロマンあるよね」
と、直虎が嬉しそうに言う。自分がギアにハマったきっかけだって言ってたもんなぁ。
「いずれにせよ、テロリストが使用したのは改造
と、天草が詳しく解説してくれた。流石に報道部だけあって、こんな都市伝説にまで精通してるんだろう。
でも、アタシと直虎はリアルにその
須藤巧という、未だその正体が掴めない天才から。
その時、テーブルの上に置いてあった直虎のスマホが震えた。
「あっ、巧くんからだよ。どうしたんだろ?」
スマホの画面を見ながらそう呟き、電話に出る直虎。
「もしもし、巧くん? おつかれ…………え、明日? うん、別に予定は無いけど。……うん、僕はOKだよ。朝倉さん? いるから替わるね」
と、アタシにスマホを渡してくる直虎。
「もしもし巧? 何?」
『ああ、ハルカさん、チワ。明日空いてますよね? ウチに来てもらいたいんですが』
と、巧。
因みに明日は土曜で休みだ。つか、なんで休みに予定がないって決めつけるんだよ、こいつ? まあ実際、無いけどさ。
「んー、すっごい忙しいんだけど、行けない事もないよ? で、何? デートのお誘い?」
側で天草がめっちゃ聞き耳立ててるから、わざと強調して言ってやった。
案の定、天草の体がピクっとしたし。
『はあ? なんで俺とハルカさんがデートするんすか? 直虎さんと一緒に来て欲しいんです』
こっちの状況知らない巧にマジに返されてちょっと凹んだ。
まあ、あの巧が来いって言ってんだから、何か重要な話なんだろう。
おそらくはアレに関係する事じゃないかな。
「いいよ、わかった、行く。直虎と一緒かどうかはわかんないけど」
学校以外で直虎と二人で移動するとか、それこそデートみたいでなんかヤダもん。
『どうやって来るかは任せますよ。それから、今そこに天草さん居ます? いたら変わって下さい』
「いるよ。ちょっと待って」
すぐ横で聞き耳立ててた天草にスマホを渡す。
「え、あたし? 何だろ?」
と、なんかウキウキしながら電話に出るのがウザいな。
「はい、天草です。はい……はい……わかりました。いえ、巧くんのお願いなら。じゃ、沖田さんに変わりますね」
だんだんテンションが下がっていく天草。あの様子だと、明日は来るなって釘をさされたかな? ってかしれっと呼び方が「須藤くん」から「巧くん」になってるんだけど。
「はい、うん、じゃ明日ね」
と、直虎が通話を終えたから、天草に聞いてみた。
「アンタには何だって?」
「明日は絶対に沖田さん達の跡を付けたりしないように、って。何かすごく重要な事があるらしいです。いずれはアタシにも話すって言ってくれましたけど」
やっぱりそういう事か。
何故かそんな確信めいた考えが頭から離れないのだった。
◇
6月後半の時期にしてはスッキリと晴れ上がった土曜日の朝、アタシはとある駅に降り立った。学園からは二駅程の結構近い距離だ。一応、ここで直虎と待ち合わせしているんだけど、なんかデートみたいでヤダなぁ。学園以外で会うの初めてだし、私服ってのも何気に恥ずかしい。まあ、暑い時期だからスキニーパンツにオーバーサイズの白Tシャツをダボッと着ただけのラフな格好だけど。つか直虎のヤツ、まだ来てないな。アタシを待たせるとか何様だよ?
暫くしたら直虎がやってきたんだけど、ダボっとしたデニム、訳わかんないプリントTシャツの上からチェック柄のシャツを羽織るという完全ヲタクスタイルに軽く目眩を覚えた。
「やあ、朝倉さん、おはよう。晴れて良かったねぇ」
と、気持ち悪い笑顔で挨拶してくる直虎。
「はよー。それ、ヲタクのコスプレ?」
「なんでわざわざコスプレするんだよ? アキバとか行ったことないし、リュックも背負ってないし。そう言う朝倉さんはモデルみたいにスタイルいいね」
「あー、うん」
うーん、あんまり返事に困る事言わないで欲しい。
結局、微妙な空気のまま歩き出し、やがて巧が指定してきた場所へ辿り着く。
そこは工事用の高いフェンスに囲まれた場所だった。パネル状のフェンスで中の様子は全く見えないけど、奥に広がる敷地はかなり広そうだ。工事中とかの看板の類いは一切なかった。
「場所はここで合ってるよね? ここが巧の実家?」
巧は現在、違う場所に住んでるし、実家があったとしても身内はいないはずだ。両親亡くした後はお婆さんにお世話になってたらしいけど、そのお婆さんももう亡くなったって聞いたし。
「うん、ナビだとこの中って事みたい。着いたら連絡してくれって言われたから電話してみるよ」
そう言ってスマホで連絡をとる直虎。
「もしもし、巧くん? おはよー。今、フェンスの前まで来てるんだけど……うん、うん、了解」
中央付近のフェンスが扉状になっててそこから出入りできるらしい。
鍵は開けてるから入ってきてくれって事だった。
言われた通り、フェンスを開けて直虎と共に中に入る。
現実世界からまるで異世界に足を踏み入れたような不思議な感覚。
そして、まさしくこの場所こそ、あの都市伝説発祥の聖地である事をアタシ達は数分後に知る事になるのだった。
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