第15話 プロモーション
放課後、理事長室に呼び出された直虎にアタシと巧もついて行った。
実は直虎に、巧と二人で行くから朝倉さんは来なくていいとか言われたんだけど、「アタシを仲間外れにする気⁉」と詰め寄って、無理やり一緒に来たのだった。
「頼むから静かにしててね?」って念を押されたけど、コイツらアタシを何だと思ってるんだろ?
理事長室には知った面々が何人かいた。
理事長、学年主任、教師数人、そしてGクラブからは部長の佐久間、マネージャーの甲斐の2人。副部長の小早川は何故か来ていなかった。
あとは我がG同好会部長の直虎、巧、そしてアタシだ。
アタシ達が入っていくと全員からめっちゃ睨まれてしまう。
特に部長の直虎にはキツイ視線がこれでもかってほど突き刺さってた。
「君達、ここに呼ばれた理由は解ってるかね?」
まず理事長が重々しく口を開いた。
「はい、ネットに上がってた動画の事ですよね?」
直虎が淡々と答える。
「そうだ。解ってるなら話が早い。どういう経緯でああなったのか、君等からの説明が欲しい。こちらの佐久間くんからは一通り説明は受けたんだがね」
「因みに、その説明を聞かせてもらってもいいですか?」
と、直虎が佐久間達をチラッと見てから理事長に問う。
直虎がどういうつもりなのかは解らないけど、なんかかなり言葉を選んで喋ってるな?ってのはわかった。
「彼等Gクラブが君たちG同好会のギアのテストを引き受けた、と。つまり、動作確認をしてあげてた、という話だ」
「はぁ⁉ なにを……モゴモゴ」
思いっきり否定しようとしたら、巧に口を両手で塞がれてしまった。
「あ、スイマセン。彼女は気にしないで下さい。えーっと、動作確認ですか? まぁ、まんざらウソじゃないですね、それ。でも問題なんですかね?」
巧にアタシを任せたまま、直虎が受け答えする。
「問題は誰かが上げたあの動画だよ。あの動画を見る限り、最初は確かに動作確認と言われればそのような動きだった。しっかりカプセルも付けられていたしね。だが、中盤からの動きは動作確認の域を明らかに超えていた」
要はアマチュアはギアで格闘まがいの事を行ってはならない、という原則があり、昨日のやり取りはその点に引っ掛かるのだ。
それなら公式種目の『クラッシュ』も激しい攻め合いしてるんじゃないか?って話だが、アレはあくまでカプセルのみを狙っているのであって、仮にカプセル以外の場所を攻撃してしまっても不可抗力として処理されるである。
勿論、故意にカプセル以外の場所を攻撃したり、あからさまな危険行為は反則となる。そのへんはサッカーやラグビーなんかと一緒だ。
あくまで攻撃していいのはカプセルだけなのだ。
よって昨日の攻防で言うと、小早川が直虎ギアの背中を激しく蹴ったのや、明らかにカプセルのない部位を狙った攻撃もそう、そして最後に巧が放った水面蹴りも厳密にはアウトとなる訳だ。
「それについての
との直虎の問に、理事長が佐久間を見、結局佐久間が口を開いた。
「あくまでウチの小早川が狙ったのはカプセルのみだ。だが不可抗力ながら攻撃が大幅に反れてしまった時が確かにある。それはそちらのギアの挙動が余りにも安定しなかったからだ、と聞いている。つまり未完成の為、あり得ないようなブレが生じていたからだ、と。背中にヒットさせた時も、ほんの少し当たったくらいだったのに大きくよろけた、という事だ」
なにそれ⁉ 自分の汚い手を、コッチのギアがボロいせいだって言ってるわけ? ふざけんなよ⁉
って叫びたかったけど、まだ巧に抑えられてるアタシ。
「へぇなるほど、それは苦しい言い訳だね。じゃあ、最後にウチの須藤くんが完璧な足払いを決めたのも偶然って事かな?」
「まあ、そういう事だ」
その場の全員が納得していないであろう台詞を堂々と吐く佐久間。
とはいえ、苦しい言い訳とわかっていてもこれで押し通すしかないって事だろう。
なにしろ、ウチの学園はGスポーツのトップとして、絶大な人気と期待を集めているのだ。
そのクラブの人間が不祥事を起こすなどあってはならない事だし、できる限り穏便に済ませようって態度が見え見えだったりするのだ。
「チャップリンのコメディ映画じゃあるまいし、そんな都合のいい偶然あるのかなぁ?」
直虎が雁首揃えて座ってる面々を見回しながら、茶化すように言う。
反論する者は誰もいなかった。
暫くの沈黙の後、理事長が重々しく口を開く。
「君も知っての通り我が学園のGスポーツクラブは全国の頂点に立つ名門だ。中でもこの佐久間君はプロから誘いが来るほどの逸材なのだ。今、不祥事を起こしてその名を汚す訳にはいかない。それは理解して貰えるだろう? それを踏まえて改めて尋ねる。昨日の出来事を君たちの口から聞かせてくれ」
「沖田、良く考えて話すんだぞ?」
「そうだ、悪いようにはしないから。しっかり言葉を選べよ?」
周りの教師連中も直虎にそんなプレッシャーを掛けてくる。
これ最早脅迫じゃん?
佐久間たちの都合が悪くなる事は言うな、って事でしょ?
冗談じゃ無い。
コッチが庇ってやる義理もないし、むしろ今まで散々嫌がらせされてきた恨みしかない。てか、これって復讐するのにいい機会だったりしない?
今までの嫌がらせを含めて、昨日の事もはっきり言ってやれば流石にGクラブは大ダメージ食らうよね?
上から目線で馬鹿にしてくれたこいつ等に一矢報える訳だ。
あ、でもそうなると巧のあの足払いも何らかのペナルティになっちゃうのか。ホントならやったらダメな事だもの。
Gクラブが、特に小早川が受ける処分に比べたら小さいだろうけどね。
それにこの学園の誇りとも言えるGクラブの名誉を汚したら、アタシたちG同好会は他の生徒から恨まれる事になるかも。そうなったらアタシたちの居場所は無くなっちゃうかもしれない。
直虎はなんて言うつもりなんだろう?
見渡せば理事長をはじめ教師連中は視線に力入れて無言の圧力掛けてきてるし、佐久間も静かに睨んでる。でも一番えぐいのはマネージャーの甲斐だな。それこそ返事次第では刺しコロされそうな、まさに鬼気迫る表情だよ、こわーっ。
ただそんな中で、直虎と巧だけは割と気の抜けた表情だったりするんだよね。つかもう、アタシの口押さえなくていいってば、巧!
「それじゃあ僕からあの騒動の真相をお話しします」
その場にいる全員が固唾を飲む。
面々をぐるりと見回す直虎。
もうっ、そういうのはいいから早く喋れよっ!
「あの騒動はズバリ、演出です」
「「「「演出!?」」」」
はぁ? 何言ってんの? ってか皆でハモっちゃったじゃない、カッコ悪い。
「それはどういう意味だ?」
教師の一人が聞いてくる。
「まぁつまりは『やらせ』って事ですね」
皆、狐につままれたような唖然とした顔してるし。
「それは……一体何の為に?」
と、理事長。
「秋の学園祭の目玉、Gクラブによる模擬戦が毎年有りますよね? そのイベントを盛り上げる為のPR動画の撮影をしてたんです」
ええっそうなの!? と、びっくりして隣の巧を見たら、微妙な顔して首振ってるし。
あ、多分、「お前が騙されてどーすんだ?」って顔だな。
そりゃそんな訳ないよね。
でも、教師や佐久間たちは嘘だとわかっていながらその説に飛び付いた。
「つまりあれはプロモーション動画撮影の為に行われたお芝居だった、と?」
「そうです。僕らG会と彼らG部は初めからグルです。周りの生徒達も当然エキストラです。ただ、事情を知らない生徒が混じってたようで、それで動画を流出させちゃったみたいですね。その点に関しては謝罪します。お騒がせしですみませんでした」
「確かに筋は通ってるな。だがそれで協会が納得するだろうか?」
その教師の言葉に直虎が反論する。
「演出でなければ、ウチのハンドメイドのギアが、スペックⅢのπギア相手にあんな見事に勝てたりしませんよ? 違いますか?」
「う、うーむ」
これには流石に皆うなってしまう。スペックⅢとはπシリーズの中でも最上位機種だと前に教えてもらったな。
大体、操るプレイヤーが一流選手な訳だし(性格は最悪だけど)、それにハンドメイドの素人が勝つなんて普通絶対有り得ない。
よってこの説得力はめちゃくちゃ大きいんだよね。
「た、確かに。演出でなければ説明がつかないな。恐らくそれで協会も納得するだろう」
なんと、舌先三寸で理事長他、教師たちを納得させちゃったよ。
当然、佐久間と甲斐からも反論はなかった。
佐久間の最初の主張と違っちゃったけど、皆それにはあえて触れないつもりのようだ。
「では、イベントのプロモーションビデオは改めて制作して発表という形になります。それをアップしたら今変に騒いでる人々も納得してくれるでしょう。それで宜しいですね?」
「ま、まあそういう事なら……」
と、頷く教師たち。
皆納得したかに思われた時、今迄黙ってた甲斐マネージャーが口を開いた。
「ちょっと待ってください。今の話しで行くなら必然的に貴方達G同好会も学園祭のG部イベントに参加するって事になりますよね?」
「そりゃプロモーションだけに登場して、本番に僕らが出なかったら詐欺になりますからね」
あっ、そうか。確かにそういう流れになっちゃうな。でもそれってどーなん? 流石にもう口から手を離してる巧の方を見ると、薄っすら満足そうな顔してる。もしかしてこの展開、予想してた?
「あのオンボ……ハンドメイドギアで? 本気ですか?」
あっこの女、オンボロって言いかけたな? 相
「そんな大袈裟に考えてくれなくいいですよ? エキシビションマッチみたいな感じで、盛り上げる為のお遊び的に出して貰えれば」
と、直虎が返す。
「ピエロ役を演じるという事か?」
佐久間が直虎を真っ直ぐ見据えながら言った。くそ真面目なコイツとしては遊び感覚ってのが気に入らないのかもね。
「うんまあ、そうかな。見てる人もそう思うだろしうね。ただ、ピエロってのはホントの実力者しかなれないもんだけどね」
そう言ってニヤリと
この回りくどい宣戦布告みたいな感じ。かえってそれが佐久間を刺激したみたい。
「いいだろう。君達G同好会もイベントに参加してもらう。詳細は追々詰めていこう」
――こうしてトラブルは意外な方向へと転んで行くのだった。
◇
「いや〜、上手い事いったねぇ。一時はどうなる事かと思ったけどさ」
理事長室からガレージに戻ってきて、どっと緊張を緩めながら言う直虎。
「すごい落ち着いて良かったですよ、直虎さん。ばっちり計算通りですね」
と嬉しそうに言う巧。
「いや、全ては君のあのとてつもない勝利があったればこそだよ。あれがあったからこんな強引な後付けでも説得力があったんだ」
「ちょっとアンタら、もしかしてこういう展開になるって初めから予想してたの?」
そういえば、朝アタシがこのガレージに来た時にはもう、二人して何やら密談してたよね。
「うん、殆ど巧君のアドバイスだけどさ、あの形が一番いいんだよ。お咎めほぼ無しで、Gクラブの連中に恩を売りながら尚かつ、イベントにも出して貰える。正に一石三鳥だね」
やっぱり二人でコソコソ打ち合わせしてたのか。
「えっ、でもあのギアで出るんでしょ? また笑いもんにならない?」
アタシには汚いヤジを浴びながら、玩具みたいに弄ばれてる直虎の印象が強く残ってしまっている。
大体本人はトラウマになってないんだろうか?
「前に言ったでしょ? いつかはGスポーツで見返したいって。僕はもう3年だから後がないし、今なら巧君っていう協力なメンバーがいるからね。多分、これが最後のチャンスになると思う。だから逃げないで前に進みたい」
そう言って、らしくもなく目を輝かせる直虎。この調子だと大丈夫だろう。
「アンタがそう言うならいいけどさ。で、種目はどうするの?」
一口にGスポーツと言ってもいろいろ種類あるからね。
「それはこれから決めるつもりだけど……」
と、言いながら巧の方を見る直虎。
すると巧がアタシと直虎を交互に見ながらはっきりと言いきった。
「俺はクラッシュがいいと思います」
「「ええっ」」
うわ、またハモっちゃったよ。何か今日はハモってばっかだな。
「クラッシュって確か3対3じゃなかった? どーすんのよ?」
「ウチ、ちょうど3人いますよね?」
しれっと言う巧。
「アタシも出ろって事⁉ やだよっ!! ギアなんて乗ったことないし」
「直虎さんから聞きましたけど、ハルカさんって結構有名なフィギアの選手だったんですよね? なら僕らよりすごいプレーヤーになれると思います。小早川レベルなら越えるんじゃないですかね」
「あー、そうだね。充分可能性あると思うなぁ」
巧と直虎にそう言われてしまう。
アタシがあのイヤミ男の小早川を超えちゃう? そりゃ、アスリートとして運動神経は誰にも負けないと思うし、ギアのトレースシステムなら体動かすだけだから、いけそうな気はする。でもなあ、肝心のアタシの心は折れたまんまなんだよ。
「取り敢えずアタシの話は置いといてさ、ギアはどーすんのよ? うちにはあのボロギアしかないじゃん?」
「それなんですが、中古の
「デルタって一世代前の作業用ギアじゃなかった? そんなの使っていいの?」
「レギュレーション的には問題ないですよ。スポーツ専用のπギアより、かなり性能落ちますからね。誰も好んで使わないってだけで」
「ええっ、そんなんじゃ絶対勝つのなんか無理じゃん? 言っちゃ悪いけど、直虎のギアもボロいし、プレイヤーは素人だし」
「デルタに関しては、手を入れたら結構イケると思います。ムダなパーツを取っ払って軽量化するだけでも動きが相当違いますからね。プレイヤーに関しては、やっぱりハルカさんがキーポイントになるんで、そこは頑張ってもらって。あと、直虎さんのギアに関しては一つ提案したい事があります」
「ん? 何だい? いいよ、その提案に乗る」
と、なんにも考えずに答える直虎。
「まだ何も言ってないじゃんっ!」
「それだけ巧くんを信頼してるんだよ。で、提案とは?」
「いや、じっくり考えて下さい。直虎さんだけじゃなくてハルカさんにも関係してくる重要な事なので」
えっ、アタシも関係する事って何?
巧は直虎とアタシを見、一旦ためてから静かに言った。
「
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