第178話 理由 2
「そう急くこともなかろう。……さて、どこから話したらよいものか」
ロームは自身の額に右手人差し指をそっと当てる。
「……そうだね……君はそのモンスターとやらを殺したことはあるのかな?」
額に当てた指をカイルに向け、指差す。
「何の話だ?」
「あるのかと聞いているのだよ」
「あるが、それがどうしたんだ?」
「ほう、そうかあるのか。はっはっはっ!」
「何がおかしい?」
「君は二本足で歩いているな」
「急に何を言いだす?」
「君が殺したモンスターは何本足で歩行していた?」
「話を逸らすな」
「まだ気づかないのかね?」
「気付くも何も、話の意図が全く分からない」
「……では簡潔に話そうか。……君は殺人者だ」
「殺……人……者……?」
「君がモンスターと呼んでいた彼らのルーツは、君たちと同じ星の人間なのだからね!」
「な、何!? そんなでたらめな話が信じられるものか!」
「では、これを見たまえ」
ロームが話した直後、部屋の景色が一変する。
「これは私の研究室を立体映像で再現したものだ。試験管の中に入っているものに見覚えはないかね?」
「試験管?」
カイルは試験管が何のことか分からなかったが、視界に人が入れるぐらいの大きさの透明な筒が複数並んでいるのが確認できた。
おそらくこれのことを指しているのだろうと考え、中身を凝視する。
「……! ゴブリンに似ている……こっちの筒の中にも……あっちには羽が生えて……レッサーデーモンか!」
「ふふふ、どうやら私の予想は的中したようだね」
「…………そ……そんな……じゃー……ゴブリンも……レッサーデーモンも……」
「同胞をモンスター呼ばわりとはひどい話だねー、全く」
「あんたがそうしたんだろ!」
「人間と色々掛け合わせてね……配合は私の知的好奇心を大いに満たした。いやー、実に楽しかったよ。最高の娯楽の一つと言っても過言ではない」
「娯楽……だって!? あんた人間の命をなんだと――」
ロームがカイルの言葉を遮って話す。
「だが、安心したまえ。君たちの世代ではもう人間とは全く別の存在であると言えるだろう」
「だからと言って……こんなこと……」
「さっき君を殺人者扱いしたのは軽い冗談だ。はっはっはっはっはっ!」
「昔の人たちからモンスターを生み出し……この星や生命を犠牲にしようとし……それに同じ星の人間のヤファスさんまでも利用した……」
「あぁ、そうだよ。どれも私の計画に必要なことだからね」
「あんた……」
「言葉を失うほどショックだったかね?」
カイルは茫然自失となり、返事をせず立ち尽くす。
「あぁ、そうそう。魔王についてだったね。確か実験動物……78号……いや、76号だったかな?」
「……実験……動物……」
「君の話から推測するとそうなるね。そうか、彼は魔王と呼ばれるような存在になっていたのか」
ロームは感慨に浸りながら、数度深く頷いた。
「魔王も……創造したのか……?」
「我ながらかなり力作だったのだが、昔の話だから詳細を忘れてしまったよ。いやはや、年を取ると物忘れが酷くていかんね」
「…………あんたがモンスターの親玉……真の魔王だったのか……」
「ほう、面白い。確かに考え方によってはそうなるかもしれないね。ヤファス君が聞いてたら飛び跳ねて喜んでいただろうね。彼、好きだったろうから、こういうのは。いやー、実に残念だ」
「そうやって人の心を弄んで!」
カイルが声を張り上げる。
「もっとも、彼らは全て私の手から離れ、自らの意思で行動しているがね」
「それならここが襲われる可能性もあるはずだ!」
「ない……とは言えないね。だが、もう準備は概ね整った」
「俺はあんたの計画を絶対に止める」
「交渉の余地はないといったはずだがね?」
「ならば力ずくでも止める!」
「近頃の若い者はすぐ頭に血が上るようだ。……と言っても私の若い頃も対して変わらんか。歴史は繰り返すと……」
カイルはヘッドアーマーをコールし、ロームの対応に備えた。
その様子を窺うロームは不敵な笑みを浮かべる。
「実はね、さっき概ねと言ったのは、当初の計画より若干マナが不足しているからなのだよ」
「それなら計画を諦めるのにちょうどいい」
「いや、問題はない。君が身に着けているアーマーの貯蔵マナを拝借するからね」
「大人しくくれてやる訳にはいかないな」
「これは少々骨が折れそうだ……老いぼれだけにね。君もそう思うだろう、カイル君?」
ロームは右手をすっと天井に掲げた。
直後、親指と中指を使って、ぱちんと乾いた音を響かせる。
「コール イプシロン」
ロームが言い放つと、虚空からアーマーが出現し彼を包み込む。
「俺と同じようなアーマーを!?」
「生身のままで相手するのは荷が重いからね。なにしろ、君のアーマーはあのスピラ君が開発したのだから油断は禁物なのだよ」
「その物言い、スピラ博士に詳しいようだな」
「あぁ、私も博士だからね。彼女のことはよく知ってるよ。そして……アーマーを粉砕し、あの小娘の悔しそうな表情を肴にして祝杯をあげるとしようかね」
「皮算用は得意なんだな」
「シミュレーションと言いたまえ」
ロームがヘッドアーマーをコールし、互いに戦闘態勢を取った。
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