第179話 正装

 ロームの先制攻撃から戦闘が始まる。


 彼は若干身体を宙に浮かばせると、一気に加速し間合いを詰めカイルへ殴りかかった。


 アーマーの助力で勢いこそあったが、カイルはそれをヤファス戦よりも脅威には感じていない。


 冷静に動きを見極め、迫りくる拳を回避する。


 カイルは回避直後、躊躇うことなく即座に拳を繰り出す。


 ――命中。


 ロームの顔面に直撃すると彼は態勢を崩し、回転しながら勢いよく地面を転がる。


 カイルは追撃はせず、自身から離れていく彼を目で追う。


 転がる勢いが完全に止まると、ゆっくり起き上がり攻撃を仕掛けてくる。


 その動きは先ほどと同様単調であった。


 再度ロームの右拳がカイルを襲う。


 今度はサイドステップで回避した直後、彼の右腕を右手で掴む。


 ロームのヘッドアーマーが右に動き、カイルのヘッドアーマーへ視線を合わせる。


「だいぶ戦闘慣れしているようだね?」


「あんたが生み出したモンスターのおかげでな」


「私はまだヤファス君の身体に慣れていなくてね。もう少し準備運動に付き合ってもらうとしよう」


 互いに言葉を交わすが、二人の素顔はヘッドアーマーの下に隠されており、表情は分からない。


「あんたの戯言に付き合っている暇はない」


 カイルは彼の右手を掴んだまま、投げ飛ばす。


 抵抗できないロームはカイルから遠ざかっていき、柱にぶつかって停止すると地面に崩れ落ちた。


 カイルは即座に間合いを詰める。


 空中へ逃げようとするロームであったが、カイルは加速して先回りした。


 突如自身の正面に現れたロームは、軌道を変えようと姿勢制御し背中を見せる。


 その隙をカイルは逃さず、パンチとキックの連撃を叩きこむ。


 全て命中するが、手応えは感じない。


 くるりと反転し、今度はロームが反撃する。


 攻撃を全て回避した直後、回し蹴りを繰り出した。


 ロームに命中すると、姿勢を崩して頭を地面へ向けて落下していく。


 カイルは反撃を警戒するが、予想に反してロームの抵抗はなく、彼は頭から地面に激突した。


 ゆっくり下降していき、ロームから若干間合いを取った位置で地上に着地する。


 しばらくロームの様子を注視していると、彼はむくりと起き上がった。


「随分丈夫なんだな」


「あぁ、安全性にも配慮するよう設計されているからね」


 ロームは右手を天井へ掲げる。


「さて……準備運動はこれぐらいでいいだろう」


 (何かしてくる前にこちらから仕掛ける!)


 掲げた右手の指を使ってアーマーをコールした時のようにぱちんと音を鳴らした。


 直後、間合いを詰めたカイルの拳が彼を襲う。


 だが、攻撃は透明な壁に阻まれる。


 (魔法障壁!?)


 連撃を繰り出すも障壁が壊れる気配はない。


 打撃での破壊を諦め、サイオニックセイバーをコールする。


「ほう、そういうのもあるのか。今まで出し惜しみしてたのかね」


 カイルは返答せず、斬りかかる。


 セイバーは障壁を切り裂き、ロームのアーマーに迫った。


 命中する直前、ロームのアーマー全体が一瞬光輝き、カイルの視界を奪う。


 攻撃は中断しない。


 カイルの手元には切り裂いた感覚はなかったが、命中した感触を得ることができた。


 光が弱まっていき、視界が確保されていく。


 セイバーはロームが斬撃を防ぐように正面へ突き出し構えた左腕に命中していた。


 (アーマーは切り裂けないか……いや違う)


 カイルがよく目を凝らすと、命中したのは正確には左腕ではなかった。


 (盾?)


 ロームの左腕にはセイバーの斬撃を防ぐように透明なシールドが展開されていた。


 さらにカイルはロームの変化に気付く。


 彼のアーマーの形状が光を放つ前とは異なっていたのだ。


「着替えるのが早いな」


「先ほどのが部屋着。こちらが正装といったところかね」


「部屋着のままで寝ていた方が助かる」


「客人はしっかり持て成さなければ失礼に当たるからね」


「俺からすると、あんたが招かれざる客だな」


 カイルは一旦ロームから間合いを取り、セイバーを構える。


「では、次はこちらから仕掛けるとしよう」


 ロームは虚空から剣を取り出す。


 その刃は鉱石のようなものでできており、鈍く紫色に発光していた。


 ロームは剣を構えると、加速してカイルへと間合いを詰めてくる。


 カイルは斬撃をセイバーで受け止めると、ロームの剣身はセイバーと接触した部分で切り裂かれた。


 破損した剣を捨て、即座に新しい剣を虚空から取り出す。


 再度攻撃を仕掛けるが、カイルは回避する。


 (速い! さっきとは動きが違う)


 カイルも反撃するが、シールドで防御される。


 先ほどとは打って変わり両者、一進一退の攻防を繰り広げた。


 ロームは剣がセイバーに切り裂かれる度に、新しい剣を虚空から取り出して攻撃を仕掛ける。


 (いったい何本あるんだ? キリがない)


 カイルはロームの攻撃を凌いだ後、間合いを取るため後方に下がった。


 すぐさまサイオニックセイバーの出力を2%に上げ、セイバーの剣身が伸びる。


 ロームの胴目掛けて右から左方向へ薙ぎ払う。


 彼は斬撃を左腕のシールドで防御した。


 その隙にカイルはサイオニックブラスターをコールする。


 (さっき壊れた銃もやはり再生していたか)


 左手に現れたブラスターでロームの身体を狙う。


 一発目と二発目――命中せず。


 怯まず射撃を続ける。


 三発目、四発目――命中。


 だが、アーマーに阻まれて貫通はしない。


 ロームはセイバーの光の剣身をレールのように見立て、左腕のシールドを展開したまま加速した。


 シールドとセイバーの摩擦面からは、火花のようなものが飛び散る。


 カイルは射撃を継続しながら、間合いを詰めてくるロームを再び薙ぎ払う。


 ロームは射撃には目もくれない。


 斬撃が命中する瞬間、スライディングで回避。


 一気にカイルの懐へと滑り込む。


 (くっ!)


 ロームは即座に大剣を虚空から取り出す。


 大剣を両手持ちし、身体を捻って回転させる。


 勢いをつけた直後、大きな隙の生じたカイル目掛けて斬り上げた。


 (一か八か!)


 咄嗟にブラスターをしまい、左手のソニックマニピュレーターを発動し大剣の剣身を掴む。


 片手だけでは剣の勢いを殺しきれず、剣身も崩れない。


 力押しされる状況に今度はセイバーもしまい、両手で掴んで対抗する。


 ロームの紫色の剣身がぼろぼろと崩れ始めた。


「ほう、一撃を叩きこめると思ったのだが」


「あんたも年の割には動きが軽快になったじゃないか」


 ロームが後方へ下がると、カイルも同じく下がり間合いを取る。

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