第146話 王都での戦闘

 マクミリアスの合図で小隊員が魔法詠唱を開始する。


 まずは炎の矢を繰り出す。


 数十もの矢が空中に浮遊しているカイル目掛けて飛んでいき命中するが効果はない。


 次に氷、それから風、雷と繰り出していく。


 (事前に聞いていた通り、アーマーには効果無いようだな)


 カイルは相手が先ほどのように諦めて撤退してくれるよう抵抗せず様子を窺う。


「魔法を一点に集中させるんだ!」


 マクミリアスの指示に従い、隊員たちは再び魔法を繰り出す。


 アーマーの一点目掛けて魔法が襲い掛かるも、先ほど同様に傷一つ付けられなかった。


 (まずいな、隊員たちが動揺している)


「怯むな! ここで屈すれば魔法小隊の名折れだ!」


 士気の高い他の隊員が状況を察して発破をかける。


 (だが、このままでは……)


 マクミリアスは一瞬眉をしかめる。


「お前たちはモンスターの襲撃を受けている王都への救援に向かってくれ! 私は後で合流する」


 彼が指示を出すと隊員たちは即座に攻撃を中止し、カイルから離れていく。


 そのまま隊員たちはマクミリアスを残して王都へと急ぐ。


 (王都がモンスターに襲撃されている!? 本当なら商会のみんなが危ない!)


 カイルは王都の方向へ視線を合わせるが、すぐ別の思考が入り込む。


 (……いや、俺は何を考えているんだ。商会はキールゼンに引き継いだんだ。もう俺の出る幕はない……)


「グラビティ」


 マクミリアスの魔法詠唱が聞こえ、視線を彼に合わせ思考を切り替える。


 (何の魔法だ?)


「まずは地上へ降りてきてもらおうか」


 マクミリアスはロムリア王国やアルバネリス王国における公用語でカイルへ話しかけた。


 (何も感じないし、変化があるようには見えないな。目に見えない何かしらの魔法が既に発動していてアーマーが防いでくれているのか?)


 (返事なし、そしてグラビティも効果なしか……であれば!)


 先端に綺麗な宝石のような装飾が施されているロッドを右手で強く握り締め、再び魔法詠唱に取り掛かる。


「悪いが、その甲冑ごと圧し潰させてもらう!」


 (ここは大人しく指示に従うか)


 詠唱を始めた直後、カイルはゆっくりと地上へ向けて降下していく。


「魔法の効果で……というわけではなさそうだな」


 彼の両足が地面についたところで詠唱を中断し、マクミリアスが話しかける。


「自らの意思で降りたのか?」


 カイルは彼の問いかけに静かに頷いた。


「なんだ、言葉を理解できるじゃないか。……抵抗する意思はないのか?」


 カイルは再度首を縦に振って頷く。


「何か喋られない事情があるようだな。まずは言葉が通じたので少し安心した」


 (若く見えるが、その割に受け応えがしっかりしている。帝国には優秀な魔法使いがいるんだな)


 カイルはヘッドアーマーの中から微笑み返すが、マクミリアスには伝わっていない。


「あなたは魔王の幹部、もしくはそれらに関連する者ではないのだな?」


 マクミリアスの問いかけに頷く。


「こちらの早とちりで申し訳なかった。王都をモンスターが襲撃していると聞いて気が立っていたようだ。……いや、謝罪して済む問題ではないな」


 カイルは彼の提案に首を横に振った。


「謝罪だけで済ませてくれるのか?」


 首を縦に振った後、ふわりと宙に浮かび上がる。


「待ってくれ」


 呼びかけられたカイルは上昇を止めて浮遊したまま地上の彼へ視線を合わせた。


「……あなたの力、魔王討伐に貸してもらうことはできないだろうか?」


 カイルはしばし間を置いた後、ゆっくりと左右に首を振る。


「すまない。急に無理な依頼を持ち掛けてしまったな」


 カイルはマクミリアスへ背を向けると一気に加速し、その場から飛び去った。


 (いったい何者なんだ? 魔法の使える騎士なのか?)


 マクミリアスは空の彼方へ遠ざかっていく彼の背中をしばらく見つめる。


 (王都の方角に飛んでいくのか。……世界は広い! 私もまだまだ精進が足りんな)


 カイルは空を翔けて一直線に王都へと向かう。


 (海底に行くのは王都の様子を確認してからでも間に合う)


 さらに速度を上げていく。


 (後で後悔したくない。俺にできることがまだあるはず!)


 王都メルリーネが見えてくると、すぐ異変に気が付いた。


 城壁の中にある建物群から煙が上がっている。


 さらに王都上空には複数のモンスターが飛翔していた。


 (寄り道して正解だったな)


 カイルはモンスター目掛けて接近していく。


 (コール、サイオニックセイバー)


 念じると右手に剣の柄が現れる。


 (セイバーの出力は3%までか。まずは1%で使ってみるか)


 さらに念じると柄から光の剣身が真っ直ぐ伸びた。


 剣身はいつも使い慣れているショートソードより長い。


 (重さを全くと言っていいほど感じない。これで本当に斬れるのか?)


 障害物がなく剣を自由に振れる状況なら、むしろ長い方が有利である。


 さらに重さを感じないのであれば尚更であった。


 セイバーの柄を握り締めながら接近していくと、見覚えのあるモンスターが視界に入る。


 (エルフの森に現れたレッサーデーモンとグレーターデーモンがいるな。後は見たことないモンスターばかりだ)


 カイルの接近に気付いたレッサーデーモンは応戦の構えを見せた。


 その直後、サイオニックセイバーの斬撃がモンスターの胴を襲う。


 カイルはモンスターの正面から斬り抜けた。


 (確実に命中させたはずだが感触がない)


 彼は瞬時に背後を振り返る。


 カイルの予想と裏腹にモンスターは斬撃を受けたところで真っ二つに裂かれていた。


 (なんて切れ味だ!)


 その斬撃たるや紙をペーパーナイフで切るよりも容易だった。

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