第140話 激動
――数か月後。
カイルの周囲では、ここ数か月で様々な出来事が目まぐるしく動く。
まず、ロムリア王国とユーファリア帝国間での戦争が終結した。
ロムリア王は帝国の捕虜となり、戦争犯罪人として処刑されてしまう。
王国騎士団長レティルスの嘆願は受け入れられなかった。
戦争の結果、ロムリア王国領の約半分が帝国の植民地となり、ここには王都ロムヘイムスも含まれている。
カイルとアイリスは帝国領となった王都ロムヘイムスを訪問していた。
王都内には戦争の爪痕が残されている。
終戦後に建築された建物もあり復興の兆しを見せているものの、建物の多くは全壊もしくは半壊していた。
崩れ落ちた建物の木材が炭になっているものもあり、石造りの建物でさえも破壊を免れなかったのだ。
激しい戦闘があったことは容易に想像でき、すっかり変わり果てた王都内を二人は沈痛な面持ちで歩く。
しばらく歩き、二人は事務所の前までやってきた。
「……事務所もなくなっちゃったね」
「そうだな……」
カイルとアイリスは瓦礫の山となった事務所をじっと見つめている。
「王都に残った人たちはどうなったんだろう……」
「分からない……無事だといいが……」
――アルバネリス王国。
王国内ではモンスターの動きが活発になっていた。
カイルたちのように戦火から逃れるため、ロムリア王国からアルバネリス王国にやって来た人間も少なくない。
彼らは戦争の犠牲になることは回避できたものの、今度はモンスターたちに安全を脅かされることとなった。
今では領内の町や村だけでなく、ロムリア王国やグラント王国などの周辺国家にも被害が拡大してきている。
すでに各国の騎士団だけでは対応が困難になっていた。
その理由は単純にモンスターの数が増えていることもあったが、今までとは大きく異なる点が二つある。
一つは、個々のモンスターが狂暴化していることだ。
現状、ゴブリンですら並の傭兵では相手にならないこともある。
次にそれらモンスターたちが狂暴化しているにもかかわらず、まるで軍隊のように統率が取れていることであった。
強力な個々のモンスターがさらに集団戦術で挑んでくると手が付けられない。
この件についてアルバネリス王は王国遊撃騎士団に原因調査を命じている。
騎士団長オルレイスが独自に調査した結果、モンスターたちを統率している者の存在が判明した。
後に、その者は魔王と呼ばれることとなる。
魔王の所在が判明し、各国は協力して魔王討伐に乗り出した。
――アルバネリス城、聖剣の間。
「なぜ私をここに呼んだのですか?」
「神託が告げたのだ」
オルレイスにアルバネリス王が一言紡ぐ。
「この私が……」
「抜いて見せよ。オルレイス」
オルレイスは足元の地面へ垂直に突き刺さっている剣を見据えた。
剣の柄に手をかけ、一気に引き抜く。
「見事だ。勇者オルレイスよ」
「私が……勇者」
「この聖剣を抜きし者が魔王を打ち倒す勇者となる。それが古よりの言い伝えだ」
「……御意」
――アルバネリス王国、王都メルリーネの飲食店内。
「おめでとうございます。勇者オルレイスさん」
「私が勇者だなんて……何かの間違いじゃないかなー」
食事をしながら副長が笑顔でオルレイスに話しかける。
「王曰く、各国総力を挙げて人材を結集させるとのこと。帝国も協力するそうだ」
「おー! 勇者御一行ですね。勇者様」
「からかわないでくれるかなー」
「ははは! 失礼しました」
――ロムリア王国、某所。
戦争終結後、ユーファリア帝国の技術が商人を通じて数多く各国に導入されてきている。
印刷技術もその一つであり、ロムリア王国内では新聞が普及しつつあった。
「号外ー! 号外ー!」
青年が大通りを行き交う人々へ元気に声を張り上げながら新聞を配っている。
カイルも青年に近づいていき一枚もらった。
「勇者オルレイスと勇者一行、ついに魔王討伐へ向けて動き出す! ……かー」
カイルが記事を読みながらつぶやく。
「勇者も気になるけど、魔王ってどんなのかな? モンスターの王様ってことだよね?」
隣で歩くアイリスが話しかける。
「そうじゃないかなー。記事によるとアルバネリス王国じゃモンスターがわんさか現れてるって噂だ」
「クルムたちが心配だね」
「さすがに王都が急に襲撃されることはないと思うけどなー」
「そうだといいけどねー」
「……ん? ……えー!」
「どうしたの?」
「イラベスク商会倒産だってさ」
「えー、あんな大きな商会が?」
「信じられないよなー。……うーん、載ってないなー」
「何が載ってないの?」
「カイル商会オーナー辞任! って記事」
「それはないでしょ」
カイルとアイリスはアルバネリス王国を出発してからノーアの依頼をこなす為、日々サーチの魔法で調査している。
「アイリス、サーチの反応はどうだ?」
「少しずつ大きくなってきてるよ」
「ロムリア王国内にいるかもしれないってことか」
「そうかもね」
カイルたちは反応が大きくなる方へ歩いていくと、やがて港町のポートリラに到着した。
「反応追ってきたら港まで来ちゃったね」
「ここから先は海だな。もしかして海を挟んで別の大陸にいるのか? ルマリア大陸やユーファリア帝国とか?」
「どっちに行く?」
「まずは行き慣れているルマリア大陸へ行ってみるか」
カイルたちはポートリラで一泊した後、港へと向かう。
二人はカイル商会の船が港へ停泊しているのを見つけた。
(船は無事だったんだな)
船の所有権は商会にあり、カイル個人の所有物ではないので自由に使用することはできなかった。
二人は客船に乗ってルマリア大陸へ目指すことにする。
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