第102話 新武器の入手
数週間後、ロミリオが商館に戻ってくる。
彼はカイルたちに無事に船の木材調達ができることを報告した。
カイルたちは歓喜に包まれ、ロミリオに礼を述べる。
「ドワーフの街には造船所はありませんが、どこで建造されるつもりなんですか?」
「ドワーフにロムリア王国まで来てもらい、エルフたちにも木材を運んでもらおうと考えていた」
「そうなると材料の運搬費がかさみ、運送方法も別途考える必要がありますね」
ロミリオの意見にカイルも頷く。
「それなら僕の商船が停泊しているところで建造するのはどうでしょうか?」
「助かるが、可能なのか?」
「はい。船の建造期間中に空けるぐらいなら問題ありません。それに積み荷を下ろすぐらいなら別のところでもできます」
「その提案はありがたいな」
「加えてドワーフなら建造設備への改造を難なくこなせるはずです。そこで建造できるならドワーフやエルフたちの負担もいくらか軽くなります」
カイルは納得し深く頷いた。
「総合的に考えれば、王国内で建造するより建造費を抑えられるはずです」
「ありがとう、まさか間借りさせてもらえるとは考えてなかったので助かった」
それからカイルとロミリオは詳細な打ち合わせに入り、段取りが決まると建造が開始された。
船が完成するまでの期間、カイルたちは一度王都へ戻ることにする。
完成後、再度エルフの森を訪れて船を受領する予定だ。
カイルたちはロミリオに改めて礼を言い、エルフの森へと入っていく。
慎重に進んだおかげか幸い道に迷うことなく森を抜けることができた。
宿に保管してあった馬車を受け取ると、ドワーフの街のフラーギの工房へ訪れる。
依頼していた剣を受け取るためだ。
「これがあの錆びた剣なのか……?」
手に持った剣をまじまじと見つめる。
ゴミ同然だったものが信じられないほど綺麗な輝きを放つ。
一から製作して、ついさっき完成したと言われても疑う者は誰もいないと断言できる仕上がりだった。
「これは発掘武器だったんですか?」
「あぁ、そうだな」
「やっぱり」
「ただ、品質は並といったところだな。とはいえ現代の名工が製作するものよりは遥かに高性能だがな」
「これで並……」
「あと、剣の鞘もこしらえておいたぞ。これはおまけじゃ。造船の依頼をしてくれたからな」
「ありがとうございます」
「久々に大きな仕事じゃ、腕が鳴るわい」
「それでは造船の方もよろしくお願いします」
カイルたちはフラーギの工房から出ていった。
「なー、この剣に名前つけようぜ」
工房から出てすぐ、待ちわびていたかのような表情でレイジーンがカイルに話しかける。
「名前かー……じゃー、カイルソードで」
「だっさ! 剣泣いてそう」
レイジーンは剣を憐れむような表情で見ながら話す。
「そう? じゃー、カイルブレードで」
「「えっ? そっち?」」
アイリスとレイジーンが同時に声を上げた。
――王都の事務所。
カイルたちは長旅を終えてロムリア王国の王都に戻ってきた。
「ただいま、みんな」
事務所に戻ると皆が笑顔で挨拶を返す。
ただ一人、キールゼンを除いて。
「キールゼン、報告頼む」
「はい。特にトラブルなどはありませんでした。鉱山も順調に稼働していますね」
「おっ! 順調か」
「鉱山の責任者をハルドにしたのはオーナーの良い判断ですね」
「キールゼンが褒めるとは珍しいな」
「それより、オーナー。アマルフィー商会との定例報告会が迫っています」
キンゼート鉱山を共同所有してから、事業に関する定例報告会をアマルフィー商会の屋敷で開催することを取り決めている。
「おー、そうだったな」
「オーナー、これを」
カイルはキールゼンから報告会で使用する資料を渡された。
「ありがとう」
「何を驚いているのですか?」
「いや俺、何も頼んでなかったのになと思ってな」
「これぐらい言われるまでもなくできて当然です」
事務所に帰ってきて早々、準備を整えるとアマルフィー商会へと向かう。
(なんとかぎりぎり定例報告会の開催日に間に合った!)
カイルは屋敷の扉をノックする。
しかし、扉の奥からは反応がない。
(ん? 誰もいない?)
もう一度ノックしてさらに待つ。
(今日で報告会の日程合ってるよな?)
一度出直そうかと考え始めた時、ようやく扉が開く。
「誰もいないかと――」
「カ、カ、カイルオーナー……」
正面にいる男性は顔面蒼白でなんとか声を発している様子だった。
「ア、ア、アマルフィー」
「アマルフィーさんがどうかしたんですか?」
「わ、私じゃありません!!」
「落ち着いてください。何があったんですか?」
「…………死んでました」
「……えっ!?」
カイルは男を一旦落ち着かせ、詳しい状況を聞いた。
屋敷の中に入り、アマルフィーの寝室へと向かう。
部屋に入ると惨殺された彼の遺体が横たわっていた。
(なぜ……? 何か取引で揉めたのか? 殺害されるほど取引で揉める人とは思えないが……)
カイルの隣に立っていた男はアマルフィーの死体を見ると再び錯乱しだす。
彼をなだめ落ち着かせてから関係各所へ連絡するよう指示する。
一通りの対応が済んだ頃には、夕方になっていた。
――後日、王都の事務所。
アマルフィー商会から帰ってきたカイルは主要メンバーに屋敷での一件について報告した。
報告を聞いたメンバーは皆、信じられないといった表情をしている。
「……それでカイルオーナー、これからどうするのですか?」
キールゼンが淡々と話す。
「アマルフィー商会の方が落ち着いたら、今後について話し合う」
後日、ロムリア王国から手紙が届く。
内容はキンゼート鉱山の所有権が王国へ返還された旨の通知であった。
それから数日後、責任者のハルドが事務所を訪れる。
彼は鉱山へある日突然、ロムリア王国騎士団がやってきたと話す。
所有権が王国へ移ったと一方的に通告し、スタッフは全て強制退去を命じられたとのことだった。
中にはハルドを始め事情を確認する者もいたが、騎士団は全く取り合わず抵抗する者は拘束すると強硬姿勢であったので渋々従ったと説明する。
ハルドからの報告を聞き終えたカイルはキールゼンと対策を考えた。
「こうなったら鉱山の所有権は諦めるしかないでしょう」
「……そうだな……」
カイル商会が所有権を諦める方針に決定した頃、アマルフィー商会は混乱の収拾がうまくいかず瓦解した。
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