クラスで一番の彼女、実はボッチの俺の彼女です

七星 蛍/角川スニーカー文庫

プロローグ


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

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 人には得手不得手がある。スポーツであったり、勉強であったりと学校というこの一つの小さな環境においてもそれは変わらない。俺──篠宮誠司の場合もそうだ。

 同級生とどうでもいい話で盛り上がったり、部活に精を出したりという世間一般で語られる「青春」がただ自分に合わなかっただけ。だから今、こうしてボッチという状況が出来上がったのも必然と言える。

 しかし世の中には陰と陽、闇と光のように正反対のもの同士が存在しており、学校におけるスクールカーストも例外ではない。俺を底辺層であるボッチと称するならば、彼女はトップカーストといったところか。こういう時にボッチが闇属性扱いなのは宿命。そのうち魔王適性とかもらえそう。

「やっぱ何時間授業を受けても慣れないな! あの神崎さんが同じクラスなんて。しかも隣の席ときた」

「わかる。俺なんて去年同じクラスでも、まだ話すときに緊張してる」

「オーラが違うもんな。さすがはモデルだよ」

「なのにそれを鼻にかけてない態度! 誰にでも優しい性格と慈愛に満ちた笑顔! まるで天使だね、天使」

「付き合ったら意外と尽くしてくれそうなのもいいよな。……まあ、手が届かないところも含めて、天使だけど」

「所詮、俺たちは堕天してくるのを待つしかないのか……」

「だな……」

 後方の席に集まった男子生徒たちの会話が途切れた。テンション上がったり下がったりと忙しいやつらだな。それと堕天して悪魔になっちゃったら本末転倒だろうが。

 進級してから一週間が経った程度のため席替えはされておらず、席順は名前順のままだ。

 か行とさ行ということで、例の人物は俺の右斜め前方の席に腰掛けているのだが、その周りには複数の生徒の姿が見受けられる。俺の席付近と比べるとまるで温度差で結露が出来てしまうレベルだ。

 彼女の名前は神崎琴音。話に頷くたびに揺れるセミロングの栗色の髪に、横顔であってもその整った目鼻立ちは目を引くもので、高校生モデルであることを象徴している。

 加えて成績面も優秀だ。首席で合格し入学式で壇上に上がっていて、そこから一度もその座を他人に譲ったことはない。はっきり言って人間として出来が違う。『天は二物を与えず』なんて言葉があるが、結局神様は嘘つきだったのだ。そのしわ寄せがこっちに来てんだよ、クソじじいども。

 さっきの男子生徒が言うように、神崎は誰にでも優しく、気さくに話しかける。でも結局それは偶像の神崎の姿であって、誰にとっても──もちろん俺にとってもそれは高嶺の華のものに過ぎないのだ。

 ──あくまでも表では。

 様子を窺うのをやめ、腕を枕にして次の授業まで……いや、なんならその授業が終わるまで寝ようとしていたところを振動が襲った。

 その正体は引き出しの中に入れていたスマホ。どうやらラインでメッセージを受信したらしい。

『寝ちゃダメ。今寝ると篠宮絶対起きないからね』

 ファイトという内容のスタンプと共に送られてきたメッセージ。

 その差出人は現実でも、周りの話に同調しながらもバレないように、こちらにウインクをかましてきた。相変わらず超器用。ノールックでどうやってメッセージ打ってんだよ。

 ──神崎琴音は俺の彼女である。

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