第5話

なんとなく目が冴えてきたので起きた。

今日は昨日やめておいた左の階段をのぞいてみることにする。右の階段と同じ要領で登っていく。繋がる扉を開けようとすると、ちょうど背の高い男が出てくるところだった。確かに左の扉は他と比べて人の出入りが多のは見て知っていた。

「あれ、新人くん?」

すれ違う時にちょうど呼び止められたので言われるがまま止まった。

「もしかしてここ入るの初めてだったりする?ここすごい複雑だけど」

「あ、はい、初めてです。複雑、ですか、?」

「おう、ついといで!あとな新人くん、俺のことはアキって呼んでくれ」

気さくなお兄さんといったイメージだ。少し安堵する。

「聖大と申します。よろしくお願いします」


長い長ーい廊下は、突き当たりが見えないほどまで伸びていた。

「ここには無限と言っていいほどの部屋がある。だいたい趣味のための部屋で、ひとり何部屋でもあたるのさ、俺も行ったことない部屋が多いなぁ。これあんまり遠くの部屋まで行くと戻れなくなるって説もあるから気をつけてなー」

「さて、聖大はどこの部屋がいい?何がしたい?」


ここは部屋棟と呼ばれるそうだ。それぞれの部屋に違うものが設備として用意されていて、画材、楽器、調味料、文房具など、住む人が趣味に合わせて好きな部屋を選べるようになっている。これも部活を選ぶみたいでワクワクする。僕はスポーツをやってみたかったから、トレーニング器具などが揃っている部屋をもらった。画材の部屋とか天体望遠鏡のある部屋なんかも魅力的だったけど。

アキは自分の部屋に僕を呼んでくれた。大柄な見た目とは相反して、茶道をやっているそうだ。上品な動作で僕にお茶を出してくれた。

「聖大はどっちなんだー?見た感じだけど、停止組か?」

あれ、藍架にもこんなこと言われた気がする。

「実はその辺よく分かってないんですよね」

正直にいうと「マジか!」と驚かれた。


「ここに入る時、言われなかったか?この隠れ家は何かしら問題があって現実世界から逃げてきた人が集まっているわけだが、一時停止コースと停止コースがある。一時停止コースってのが、ここでしばらく外界と遮断された生活で癒しを得て、心が落ち着いた頃に現実世界に帰るプラン。んで、停止コースってのはもう、現実に戻る必要がなくて死ぬまで一生ここで遊んでられるプラン」

「あぁ、確かにそんな説明あった気がします。『戻るかどうかもあなた次第』みたいな。でも……選んだ記憶はないですね」

「そうか、じゃあデフォルトのまま申し込んだんかな。デフォルトだとすれば、停止コース。戻らなくていい方のやつだ。俺と一緒だな!」

アキは陽気に悪気なく喜んだ。

よく分からず大事な決定をしてしまっていたみたいだけれど、僕も悪い気はしなかった。

「死ぬまで一生って、ここで生きてて死ぬことなんてあるんですかね」

「ああ、あるさ。現実世界にコピーの自分を立てたろう?アイツが死んじゃえば、俺らは一貫の終わりってわけだ」

「なるほど」

そうすると少し現実世界に立てたコピーに申し訳なく思えてくるが、所詮はコピーであり、人間でないのだ。アキと出会ってまたひとつ隠れ家のシステムが分かった。

それから2人で反対側のスポーツジムに行き、ふたりバスケを楽しんだ。

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