クリスマスの日に
yurihana
サンタ
12月25日はクリスマスですが、そこに必ずと言ってもいいほど登場してくるサンタという生き物に、私は常に疑問を抱いていたのです。
幼少の頃より、サンタがそりに乗ってくるだの、トナカイを飼っているだの、周りの人、子供も大人ですらも、騒いでいましたが、私はいまいちイメージ出来ずに、適当に話を合わせていました。
さて、あれは確か、8才のクリスマス、私は母から離れて、1人で散歩をしておりました。
辺りにはうるさいほど、キラキラと照明が輝いており、お店の人は揃いも揃って、赤と白の服を着ていたのを覚えています。私はどうにかしてこの喧騒溢れる町から逃げたいと考え、ひっそりとした路地裏に向かって歩いていきました。
母から散歩をする許可を取るときに、暗い道に行かないことを約束させられましたが、路地裏に来てみると、約束を破る背徳感が心地よく感じて、怖さと好奇心を胸に、路地裏へ入っていきました。
路地裏はひっそりしていました。人も野良猫もおらず、辺りは静寂に満たされておりました。私は自分が満足するだけ、その路地裏で立ち止まっていましたが、カラスの鳴き声が聞こえると急に怖くなって、早足に路地裏を出ようとしました。
表通りまであと少しというときに、背後で物音がしました。おそるおそる振り返ると、一冊、本が落ちていました。表紙には何も柄がなく、題名もなく、紫と焦げ茶が混ざったような色のカバーがかけられていました。
その本を視認した途端、私の好奇心が急激に育ち、思わず手にとって、まじまじと表紙を眺めてしまいました。
その本には、普通の本とは違った、不思議な魅力がありました。私は好奇心が促すまま、ページをめくりました。
その本は分厚かったのですが、同じ内容を繰り返している節があって、要約すると、非常に短いものでした。せっかくですから、本のだいたいの内容を、皆さんにお伝えしたいと思います。
これを読んでいるあなたへ
私は、サタンという生き物です。悪魔、と言った方が分かりやすいでしょうか。
私達は人間に不幸を与え、日々生活しています。人間の悲しみ、苦しみが私達の生きる糧であり、大好物なのです。あなた方は、サタンを人間の敵対者として捕らえていますが、それは間違いではないということになりますね。
では、なぜそんな人間に敵対している者が、この本を書いたか。それは人間共が馬鹿騒ぎしているクリスマスに、実際何が起きているのかを、知ってもらいたかったからです。
簡潔に述べますと、クリスマスの日に限って、サタンはサンタになるのです。
物質的なものをプレゼントしているわけではありません。そういうものが欲しいのなら、ぜひあなたの優しいご両親にねだってください。
私達は、幸せをあなた方へ与えているのです。
クリスマスの日に、泣いたり、落ち込んでいる人が一人でも減るように、私達は世界を飛び回っています。
かつて、私達は日付に関わらず、人間に不幸を与え、いつも通りに暮らしていました。
ですが12月25日、イエス・キリストという男が、人類の全ての不幸を背負って死んだことで、私達の生活に、劇的な変化が起こりました。
キリストが死んだ時から、12月25日になると、神々の力が増し、人間に不幸を与えることができなくなるのです。それどころか、その日に限り、人間に幸福を与えることで、私達の力が増すようになったのです。
私は人間の喜ぶ顔より、苦しむ顔の方がよほど好きなのに。
あなた達人間は、いまいちピンと来ないでしょう。しかし、神々や悪魔、死神が暮らす世界では、何千世紀ぶりに起こる、大事件でした。
以上により、クリスマスの日にあなた方の多くが笑って暮らせるのは、私達サタンのお陰なのです。あなた達の苦しむ顔が見れないなら、せめて頭を垂れて、心から感謝をしなさい。
ああ、憎たらしいイエス・キリスト!
あなたさえいなければ、私は一年中人間の苦しむ顔を見ることができたのに!
そこで、文章は終わっていました。
私は本の内容が本当のことのように思えました。
私は本をしばらく見つめていましたが、その場に捨てて家に戻りました。
サタンが何をしていようが、私には関係ありません。
誰かが落ちている本を見つけ、世間に公表しても、新しい宗教を作っても、はたまたゴミとして燃やしても、私にはなんら関係ありません。
ただ、私はこの散歩の時間をなかったことにしたかった。
私は、世間が何かの意味を作ろうとしているこのクリスマスに、何の生産性もない行動をやってみたくて散歩に出かけたのです。
本も知識も今は得たくありません。
私は一人、適当に口笛を吹いて、飄々と帰路を歩いて行きました。
クリスマスの日に yurihana @maronsuteki123
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