第19話・街に行こう


天高く馬肥ゆる秋…。

空は青く澄み渡り、そよ吹く風が心地良い。絶好の旅立ち日和だ。


出稼ぎ第一陣の俺達は村で用意された馬車に分乗して早朝に旅立った。


目的地の街の名は『ヤドラム』、辺境の街ではあるけれど交通の要衝でもあるのでそこそこ栄えている。

しかもダンジョンもあるらしく、そこで一攫千金を狙う冒険者も多いらしい。


まぁ、俺達出稼ぎ組みは普通の冒険者がやりたがらない安価の「採取クエスト」や街中の雑用、ダンジョンでも浅い階数での仕事しかやらないんだよね。

出稼ぎは一獲千金を狙わず、確実性と仕事の量で勝負しないとね。


村を出て三日、遠くに街が見えてきた。ヤドラムの街だ。

ファンタジー世界の定番で高い壁に囲まれているのかと思ったけど、別にそんな事はなく普通に街に入ってこられた。


「壁とかあって、衛兵とかいるのかと思ってた」

「あぁ、この街は要塞都市じゃないからな。国境からも離れてるから、そんな壁はいらないんだよ」


そう教えてくれたのは、一緒に出稼ぎにきたガンツさんだ。


「元々は小さな宿場町だったんだが、交通量が増えたうえに近くにダンジョンが発見されたから大きな街になったって話だ」


そんな話をしながら、馬車は決まった目的地があるのか、ゆっくりと進んでいった。


「どこに向かってるんですか?宿とか決まってるんですか?」

「いや、直接ギルドに向かうよ。挨拶もあるし、ギルドは簡易宿泊も持ってるからな」

「じゃ、村長に言われたお使いもすぐに済みますね」

「そうだな。それに、お前さんの登録もやっておかないとな」

「そうですね。チャっチャと済ませちゃいましょう」


そう言ってはみたのだが、正直に言えば俺には少々不満があった。

それは、ここまでの道中になんのイベントらしい事が何ひとつなっかたからだ。

よくあるファンタジーなら、ギルドに到着するまでの間に何かしらの出会いのイベントが必ずある。

だが、この世界の神様は俺に厳しいのか優しいのかわからないが、これという、イベントがほぼ何も起こらない。


村から街の移動途中で起こる定番の『どこぞの令嬢が盗賊に襲われてるところを救出』とか……。


街に入る所で起こる定番『モケミミ少女が悪徳貴族に絡まれてるところを救出』とか……。


街中で起こる定番『可愛い女の子が小悪党に絡まれてるところを救出』とか……。


ドキドキイベント一切無し!!

目立って面倒くさい事になるのはイヤだけど、可愛い女の子とキャッキャウフフはしたいという男の子気持ちがまったくわかってないんじゃないのかな?!この世界の神様は!!


順調なのも良いけど、ヒロイン的キャラがいないのはどうなのかな?

ミイシャ婆さんでもヒロインにしろとでも言うのか?

ふざけるじゃなぁーい!!!

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