第13話・お祭りとか訓練学校の事とか……


村に到着すると、ヘイゼル爺さんは男衆を集め、あれこれと指示を出し始めた。

獲物を吊り下げる櫓を組んだり、火を焚いて大鍋でお湯を用意したり。

なんやかんややっていると次第に村の女衆も集まり始め、なんかお祭り騒ぎになってきた。


「お~い!ユウキ。こっちに来て、獲物を出してくれ!」


ヘイゼル爺さんが催促してくる。


「は~い。今、行きますよ~」


そう返事をして、村の衆の目の前にライトニングボアを出すと、騒ぎがより一層大きくなった。


「お~!!こりゃデカいなぁ~」

「コイツを一人でか?よくやったもんだ!」


などと、みんなが賞賛してくる。

いやぁ~テレますなぁ~。

こんなに誉めてもらえるなら、死にかけた甲斐もあったもんだ。


それからは、村のみんなでライトニングボアの解体が始まった。

さすがにみんな、手慣れてるものだね。

テキパキ動いて、俺の出る幕は無さそうだ。


でも獲物が大きい分、食べきれないほどの肉ができる。

だが、ご安心。角イノシシは余す所無く使われる。内蔵も捨てない。ハムやソーセージにして保存するんだって。

内臓は薬にも使われるらしいよ。もちろん、骨もいろいろと使い道があって、道具の素材になったり、工芸品になったり、スープの素にもなったりする(豚骨ならぬ猪骨スープ)。


そんなこんなで、今夜は村のみんなでイノシシパーティーをやる事になった。

大きな獲物が穫れた時には必ずやるんだそうだ。

そうやって、運命共同体でもある村の人たちを一つにまとめるんだそうだ。独り占めなんてことはやらない。

助け合わないと、ちょっとした事で村が全滅って事にもなるらしいからね。

この世界は「死」すぐ近くにいる怖い世界なのだ。


解体されていくイノシシをボケ~と眺めていたら、パレオ村長が声をかけてきた。


「ヘイゼル爺さんから合格をもらったそうじゃないか。おめでとう」

「あっ村長、ありがとうございます。ギリギリって感じですけどね」

「あれも、君一人で狩ったんだって?すごいじゃないか」

「運が良かっただけですよ。何せ、死にかけましたからね」


村長さんからの賛辞を受けると、何となくくすぐったい感じだが悪い気はしない。


「でだ、試験から帰ってきた直後で悪いんだが、冒険者育成の事を話し合いたいんだが、大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ。今はヒマですし、こういう事は早めに片付けた方が良いですしね」


そう言うと、俺達は移動を開始した。移動先は村長宅の離れ、俺の仮の住まいだ。

そこで俺と村長は訓練学校のカリキュラムについて話し合った。

入学時のランク分けやら、基礎的な訓練方法や知識の習得法。

教科書代わりなるような本の選定、訓練期間の決定や生徒のための宿舎。

やる事は多岐にわたっていた。


「基本的な訓練校とは言っても、案外と決めることが多いな」

「ですねぇ……。さすがに俺みたいなド素人を育てるって事は無いとは思いますけどね」

「それでも、必要最低限の訓練でも一年はかかる計算だぞ。さすがに職業別の訓練はギルドに任せるしかなさそうだな」

「職業別はギルド任せで良いと思いますよ。ここでは、生き残りの術を学ぶ事に重点を置くべきだと思いますけど?」

「そういうモノかな?」

「個人的な意見ではあるんですけどね。まずは、冒険者の生存率の向上を最優先として、資質の向上は後回しで良いのではないかと。こちらも育成経験がない事ですからねぇ」

「そうだな。まずは、生存率の向上からだな。こちらも経験値を上げてから手を広げていくか」


俺の提案が通ったようだ。慌てる必要はない。まずは、生き残る事が重要だ。

冒険者は経験して強くなるなんて事をやっていたら命が幾つあっても足りない。

この村が初心者の冒険者に最低限の知識と技を教える場所になれば、村にもギルドにもそして冒険者にも恩恵を与えてくれるだろう。


「ユウキや、そろそろ宴の用意が出来たらしいよ。みんなが待っているから、行っておいで」


あれやこれやと話しを詰めていると、ミイシャ婆さんが呼びに来たので、みんなでお祭り騒ぎの会場である村の広場に行く事にした。

村の広場に着くとなんかスゴイ状況になってる。

ぐつぐつと煮えてるいくつもの大鍋、隣には派手に飾り付けられてるライトニングボアの頭蓋骨。

その奥には、剥がされたイノシシの皮、そして横にはイノシシの脳ミソが鎮座している。


うわぁ……、何これ?サバトですか?悪魔でも呼び出すんですか?


見た目には、かなりグロい……。


だってさ、ある鍋なんて内臓と血を煮てるんだよ。もうグロ過ぎじゃん。

まぁ、血のソーセージを作ってるのは理解しているけども……。

元いた世界でもあったしね。食った事もあるけどさ。正直、俺の口には合わなかった。


引き気味に広場を眺めていると、すでに出来上がってる集団がいた。


「お!祭りの主役が来たぞ!ユウキ!!さっさとこっちに来い!」


ヘイゼル爺さんたちの酒盛りに引っ張り込まれた。


「駆けつけ三杯!ユウキも飲め飲め~。んで、食え食え~」

「だぁ!爺さん!酒臭ぇっスよ!」


もう祭りと言うよりは、単なる飲み会って感じだ。

村の衆への挨拶とか乾杯の音頭とかは、一切無い。

いつの間にか、そこかしこで飲み食いが勝手に始まっている。

歌を歌いだす者、踊りだす者、楽しければどうでもいいって感じだ。

たらふく食って、飲んで、騒いで、楽しく過ごす。

それがアサイ村流ってヤツなんだろうな。

何か平和で楽しい。この村に拾われて良かった。そんな気がした。


夜になっても、村の酒盛りはまだまだ続いている。

俺は、ちょっと食休みにと、喧噪から少し離れた場所で腰を下ろしていた。

そんなところへ、ヘイゼル爺さんがきた。


「ユウキ。これはお前のもんだ。受け取れ」

「なんスか?これ?」


それは綺麗な青色の角だった。


「お前の狩ったライトニングボアの角だ。持っておけ」

「え?良いんスか?これって魔石でしょ?売れば村の財産になるんじゃないの?」

「これはお前が一人で狩った獲物の角だ。お前にはその資格がある。遠慮するな」

「そうですか?じゃ、遠慮なくいただきます」


そう言って俺はライトニングボアの角を受け取った。

ほんのりと青く輝いて見える角、その中には風属性の魔石が入っている。

それは俺が、この村でどうにか認めてもらった証みたいなものなんだと感じた。

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