異世界ヘタレ紀行

くずやま猫夫

第1話・突然だけど困った状況になった


俺、神代祐樹は非常に困っていた。

ある有名電気量販店で買い物をすませ、店を一歩出た途端

なぜか俺は森の中にいた……。


「……!?……??????……」


人間は、自分の常識外の状況に陥ると思考が停止するという……

今の俺の状態がそんな感じだ。

周囲を見回してみるが、木しか見えない。

目の前にあるはずの大渋滞している国道も、きらびやかなショッピングビルも歩くことも困難な程の人ごみも何もない。


「……え~っと……ここって……どこ?」


しかし、ただ困ってばかりはいられない。止まった思考を無理矢理働かせる。

とりあえず、スマホで現在位置の確認をしてみるが…

……何故か知らんが、現在位置が表示されない…てか、圏外になってて電話も通じない。

ヤバいぞ…このままじゃ最悪サバイバルって事もありえる……。

てか、俺に出来るのか?サバイバル?


とにかく持ち物のチェックだ!

サバイバルに役立ちそうな物があるかもしれん。


スマホに財布、そして最大の持ち物のさっき量販店で買った掃除機……

その名も「DELSONデルソン」!!

サイクロン方式で吸引力バツグン、紙パック不要ってヤツだ。

ただの掃除機とは違う、こいつは背負って使えるのだ。

背負うとニューヨークで幽霊退治している光線銃みたいでカッコイイ

ヲタク心を刺激するデザイン。

価格59800円、ポイント10パーセント還元……

つ、使えん……orz……電気も無いうえに掃除機でどうサバイバルしろって言うんだ。

詰んだな……完全に……

こうなったら、現実逃避しかあるまい……

俺はモソモソと掃除機を箱から引っ張り出した。|

う~ん……かっこいい!俺のヲタク眼に間違いはなかった!

無理して買ってよかったよ。もうこれは背負うしかあるまい!


そして、「DELSONデルソン」を背負った瞬間それは起こった。



俺の頭の中に雷鳴が轟いた。情報が流れ込んでくる。

「マジかよ……」

そう呟くのが精一杯だった。

ここは俺のいた世界じゃない……ラノベの定番「異世界」らしい。

う~ん……この手の話は嫌いじゃないんだけどねぇ~

ネット小説やらマンガやらアニメなんかも一通り観たけどねぇ~

さすがに現実となると正直困るんだよな~

こっちにも都合ってものがある。仕事だって観たいドラマだってあるのに全てがパーだ。

しかもこれでサバイバルが決定的になった。

どうにかして元の世界に戻れるまでの間、生き延びなきゃならない。

まぁ、元の世界に戻れるって保証もないけど……


やるしかないか……。そして俺はラノベの定番の台詞を呟いた。

「ステータスオープン」

すると、目の前の空間にゲームの様に俺のステータスが表示された。


名前・神代祐樹

職業・DELSONデルソンの使い手

スキル・DELSONデルソン召喚


なんだこれ?……掃除機の使い手?

異世界でビル掃除のバイトでもしろと?

定番のチートはどうした!?俺TUEEEできないのか?

マジかぁ~……異世界でいったい何を掃除しろというのか……

う~ん……困ったなぁ~……とりあえず、DELSONデルソンの方も確認しておくか……


DELSONデルソンステータスオープン」


おや?……何も出てこないぞ……

う~ん……これじゃDELSONデルソンの能力がわからないな~

どうしょうかと悩んでいると、掃除機が入っていた箱が目に入った。


「もしかして……」


そう呟きながら箱を探ると、やっぱりありました!

取り扱い説明書!!


なんかやたらと豪華な装丁!

革張りのハードカバーに凝った字体で「DELSON取り扱い説明書」と書いてある。


正直、取説ごときにこの豪華さはいらんだろう。

コイツに掛ける金があるなら、その分安くしてくれる方が消費者としてはありがたいのだがな~

そう思いつつページを開き、適当に読み進める。


そこには、こう書いてあった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この度は、DELSON・JAT005ーRをお買い上げありがとうごさいました。

本商品はいろいろな機能を十全に搭載しており、お客様のお役立てる掃除機となっております。

これからの異世界ライフを思う存分お楽しみ下さい。

なお、本商品は神代佑樹様専用となっておりますので、ご了承下さい。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


さすが、海外メーカー!

俺が異世界に飛ばされることをわかっていたらしい!

……って……そんなワケあるかぁ!!


何か納得いかないが、喚いたところで状況が変わるわけじゃない。

今は読み進めていこう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


DELSON・JAT005ーRは魔力を原動力としております。

また、吸排出力の威力及び各パーツの形状の調節は、使用者の意思によって自動的に調整出来る仕様となっております。

なお、搭載されている機能を使用する事により、高性能な兵器としてもご利用いただけます。


各機能については、「機能説明」の項目にて詳しく説明しておりますので、そちらをご照覧下さい。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ん~魔力で動くんだぁ~。って事はこの世界には「魔法」があるって事かな?

しかも、威力も形も俺の意思で調節出来るってのは便利な仕様だ。

後半にある「兵器」って単語は見なかったことにしておこう。


とりあえず、俺は直管の形状になっているパイプの先端に意識を集中してみた。

すると、瞬間的に先端の形状がT字型のよく見る掃除機の先端に変化した。


おお!何かスゴイ!!


ちょっと楽しくなって、いろいろやってみると

パイプの形状はもとより長さも直径も自由自在だった。


あと基本的な性能だが、この掃除機は何でも吸い込めるらしい。

そして吸い込んだモノは「ダストケース」に収納され、任意で排出できる。

「ダストケース」の容量は無限でケース内は時間が止まっている。

但し、生きている動物は収納できない。


各機能についてだが、スゴイ量の項目だったので後回しにした。


しかし、ちょっとヘコむわぁ~

よくあるラノベなら、チートってのは主人公に付くんじゃねぇの?

それが、全部DELSONに付いてる感じだ。掃除機だけにチート能力を吸い取ったってか?

なになに?ダジャレ?笑えんよ!


まあ、考え方を変えればチートアイテムを使えるって事だし……。

それならばこのDELSONを有効に活用して異世界ライフを楽しむとしようかね。


そう考え直して俺は行動を開始した。

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