サンタさんと少女のお話

ゆにろく

サンタさんと少女のお話

「……サンタだ」


 学生服を着た少女は指をさしました。

 その先にいるのは、赤と白の服――つまりはサンタの恰好をした女の子でした。サンタは少女と同じくらいの背丈です。


「いえっ、私はパチモンです!」


「……コスプレ?」


「そうです『こすぷれ』です!」


「そのデカい鹿は?」


 少女はサンタの隣にいた、体長2mほどの大きな大きな生き物に指をさします。


「鹿じゃないです! トナカイですっ!」


「やっぱ本物のサンタじゃん」


 サンタはうろたえました。


「あっ、いや、鹿です! トナカイのコスプレをした鹿です!」


「……そもそも鹿とトナカイって何が違うの?」


「DNAですっ!」


 少女の疑問にサンタは答えました。


「……そう。じゃあそのソリに積んでるデカい袋は何?」


 次に指をさしたのは、トナカイにつながれた大きな木製のそりと、それに乗せられているこれまた大きな白い袋でした。袋は中に何かが入っているため、でこぼことしています。


「これは、その、リュックですよ!」


「どこいくの」


「子供がいる家です」


「……人さらい?」


「なっ……! 失礼な! プレゼントを届けるんですよ!」


「サンタじゃん」


「またやってしまった!」


「認めなよ。サンタでしょ」


「認めません! というか何でこんなところにいるんですかっ!? もう良い子は寝る時間ですよっ!」


 午前一時。確かに良い子は寝ている時間です。

 しかし、少女は悪い子なので、そんな時間に家の近くにある小さな山のてっぺんにいました。


「……いいじゃん。別に」


「だめです! あっ、良い子にしかプレゼントはあげれないんですよ! 良いんですか?」


 サンタ確定の発言に彼女は揚げ足を取ろうとしましたが、否定されることが今までの会話から読めたため、あえて触れないことにしました。


「いーよ、別に。欲しいものないし」


「えぇっ! そんな!」


 サンタは驚き、なぜか悲しい顔をしました。


「なんであんたが、悲しむの」


「私の仕事は、子供に幸せを届けることなので!」


 えっへんとサンタは小さな胸を張りました。


「私もう16だし、あんたと歳変わんなそうだし」


「セーフです!」


「セーフなんだ」


「まぁ、サンタじゃないですけど!」


 フォローに意味があるかはサンタ当人が決めることなのでしょう。


「……ねぇ、ついてって良い? プレゼント配り」


「えぇ?! だめです、だめです!」


「……サンタがいるぞぉ」


「あっ、ちょ」


「サンタがいるぞぉ!」


 少し声を大きくしました。


「わ、わかりました、わかりました! 乗せます、乗せます!」


「うん」


「でも、おうちの人が心配しますよ」


「……しないよ。どうせ」


「?」


「……」


「じゃあ乗ってください」


「うん」


 サンタはソリにのりました。少女も後ろに乗りました。

 トナカイが一度いななき、ソリは天空めがけて上昇していきます。


「……サンタってひげもじゃのおっさんだと思ってた」


「それはCEOのサンタです!」


「え、企業なの?」


「へ、企業? 『超、偉い、おじさん』の略です」


「……そういう意味なんだ」


 少女も「CEO」については詳しくは知りません。でも、言われてみればCEOと言われている人は基本的に偉そうなおじさんなので、あながち間違っていない気がしました。


 サンタと少女を乗せたソリ、それを引くトナカイは12月24日の夜空を駆けます。正確にはもう25日になっていますが。


「着きます!」


 見えたのはなんの変哲もない古いアパートでした。


「どうやって渡すの?」


「みててください」


 サンタはベランダに降り立ち、窓に向かいます。

 もちろん鍵はしまっているでしょう。冬に窓を開けて寝るはそういません。

 しかし、サンタが手をかけると窓が大きく開きました。忍び足で中に入り、サンタはすぐに戻ってきました。


「プレゼントっ! 取ってください! 忘れました!」


 大声にならないように、サンタは少女に助けを求めました。


「えぇ……」


 少女は大きな袋に手を掛けます。「プレゼントを取れ」と言われてもどれかわかりません。とりあえず、上の方に入っていた緑色の紙でラッピングをされた箱を取りました。


「これ?」


「あ、それです!」


 サンタはバタバタと窓から離れます。少女はソリから、ベランダにいるサンタに箱を手渡しました。


「どうも!」


 サンタはまた忍び足で、窓から家に入り、少ししてから戻ってきました。


「こうしてプレゼントを届けるんですよ!」


 そして、サンタは小さな胸を張りました。


「……空き巣みたい」


「なっ! 中に人がいるんだから空き巣じゃないですよ!」


「そこなんだ」


「いやっ! そこじゃないです! 犯罪はしてないです!」


「……じゃあ、サンタじゃん」


「サンタでもありません!」


 それからも何軒かの家へ、少女とサンタは子供にプレゼントを届けてまわりました。


「ふぅ。次で最後です!」


「……そっか」


「なんで悲しそうなんですか?」


「……いや」


 トナカイは星が輝く真っ暗な海を駆けます。


「寒っ」


「……あっ!」


 雪が降り始めます。

 少女は深夜から雪が降るという予報を聞いていました。今日はいつもより冷え込み、「この冬で一番寒いのでは?」と気象予報士が言っていました。


 ――だから今日は山にいたのです。


 サンタは無邪気に笑っていました。


 最後に訪れたのは、児童養護施設と書いてある建物でした。


「残りは全部ここです!」


 少女が白い袋を覗くと、プレゼントはまだ何十個も入っていました。


「多いので手伝ってください!」


「えー」


「乗せてあげた、運賃です」


 少女とサンタはプレゼントをいっぱいにもって、裏口からこっそり入りました。子供が寝ている部屋へ行きプレゼントを置いていきます。


「これは……」


 サンタが小さく声をだしました。

 少女が見ると、サンタの前には「さんたさんへ」と書かれた紙、クッキーと牛乳が置かれていました。


「いただきます」


 サンタは牛乳を一気に飲み干し、クッキーを咥えました。

 そして、


「どうぞ」


「私?」


 サンタは一枚のクッキーを少女へ差し出しました。


「私、サンタじゃないし」


「私も違うので」


「……じゃあ」


 少女もクッキーを咥え、サンタと共に建物を後にしました。


「ふぅ。助かりました」


 サンタはそう言い、少女へ振り返りました。


「……ふふ」


「な、なんですか?!」


「髭」


 少女は口を指さします。

 サンタは先ほど飲んだ牛乳で口元が真っ白になっていました。


「はっ!」


 気づいたのかサンタはごしごしと口を拭きました。


「……やっと笑ってくれましたね」


「え?」


「いえ、ずっと表情が暗かったので」


「そうかな」


「笑ってるほうが似合いますよ」


「……そうかな」




 サンタと少女とトナカイは空を駆けます。

 サンタは律儀にも少女を家まで送ってくれるそうです。


「あのっ」


「……なに?」


「なんで、あんなところにいたんですか?」


「あんなとこ?」


「山ですよ! 誰もいないと思ったのに!」


「あー」


 ――少女もサンタと同じく

 ――誰も来ないと、誰からもみつからないと、そう思ってあそこにいました。


「それもなんか木に身体を預けて、寝ようとしてませんでした?!」


「……そうだっけ」


「あんなところで寝たら凍死しちゃいますよ! 今日は雪も降っていますし!」


「……そうだね」


「もうあんなところで寝たらダメですよ!」


「……うん」


 ソリは緩やかに下降を始めました。


「……ねぇ」


「なんですか?」


「来年も……来る?」


「あたりまえです!」


「そっか」


「あなたが来年まで良い子でいればですけど!」


「うん」


「プレゼントを配るのが私の仕事ですから!」


「私来年で17だけど。……まだ子供?」


「セーフです!」


「いつまで子供なの?」


「サンタを望んでいる間はみんな子供ですよ」


 サンタは笑いました。


「着きましたよ」


 少女はソリから降り、家へ戻りました。


「バイバイ」


 少女はサンタへ別れを告げます。


「メリークリスマス」


 サンタはトナカイとともに、どこかへ飛び去って行きました。


 ◆


「ふぁ……」


 少女は目を覚ましました。

 何も変わらない、いつもと何も変化のない朝です。


「……夢だったのかな」


 少女は少し悲しくなりました。


「ん?」


 はらりと、紙が落ちてきました。


『来年までにはプレゼントを決めるように!』


 そう書かれた紙でした。


 ――私の仕事は、子供に幸せを届けることなので!


「欲しいモノか……」


 少女にはあと一年ほど考える余裕があります。

 いえ、余裕ができました・・・・・


『byサンタ』


 手紙はそれで締められていました。


「……サンタじゃん」

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